ツェねずみ
-中里探偵事務所-

5
田中が和紙を一枚持って部屋に入ってきた。
「このあと天丼をご用意いたしますので、この中からお選びください」
御晝食お品書き
上天丼 三千圓
海老天丼 三千圓
竝天丼 千五百圓
かき揚げ丼 千弍百圓
「御晝食お品書き、か。旧字体で書かれているところが、しゃれてるね。ユズが書いたのか」
「いや、田中君だよ」
譲はパソコンの画面を見ながら言った。
「うまい字だなあ」
「田中君は、書道の師範代だよ」
「へえー、すごいねえ」
「いや、そんなことはありませんよ」
田中義男は、照れてお盆を上げたり下げたりした。
「いや、そんなことあるよ」
明貞は和紙をしげしげと見て、ふとあることに気づいた。
「あれ、昼の旧字体って、「書く」に似てるんだね」
「ええ、「書」の下に「一」を書くと「昼」の旧字体になるんですよ」
「えっ、そうなの。「書」と「一」で「晝」になるのかい?」
譲はパソコンの画面から目を離し、明貞のテーブルに近寄った。
「そうか、……なんで今まで気づかなかったんだろう」
譲は和紙を両手で持って、穴が開くほど見つめている。そして、おもむろに別のテーブルの上のペン立てからボールペンを手にとって、反故の裏に大きく字を書きはじめた。

それを二人に見せる。
「どうだい。なにか気が付かないかい?」
「さあ、いったいどうしたんだい?」と明貞が首を振る。
もう一枚紙を取り出して、今度は逆に書く。

二人は無言である。
「まだわからないかい?」
譲は、もう一枚紙を取って、また書いた。

「あー!」
明貞は大きな口を開けて、そう言った。
「ちょっと待て。今『田山花袋の日本一周』を出す」
明貞は隣のイスに置いたバッグを漁った。
「このあと天丼をご用意いたしますので、この中からお選びください」
御晝食お品書き
上天丼 三千圓
海老天丼 三千圓
竝天丼 千五百圓
かき揚げ丼 千弍百圓
「御晝食お品書き、か。旧字体で書かれているところが、しゃれてるね。ユズが書いたのか」
「いや、田中君だよ」
譲はパソコンの画面を見ながら言った。
「うまい字だなあ」
「田中君は、書道の師範代だよ」
「へえー、すごいねえ」
「いや、そんなことはありませんよ」
田中義男は、照れてお盆を上げたり下げたりした。
「いや、そんなことあるよ」
明貞は和紙をしげしげと見て、ふとあることに気づいた。
「あれ、昼の旧字体って、「書く」に似てるんだね」
「ええ、「書」の下に「一」を書くと「昼」の旧字体になるんですよ」
「えっ、そうなの。「書」と「一」で「晝」になるのかい?」
譲はパソコンの画面から目を離し、明貞のテーブルに近寄った。
「そうか、……なんで今まで気づかなかったんだろう」
譲は和紙を両手で持って、穴が開くほど見つめている。そして、おもむろに別のテーブルの上のペン立てからボールペンを手にとって、反故の裏に大きく字を書きはじめた。

「どうだい。なにか気が付かないかい?」
「さあ、いったいどうしたんだい?」と明貞が首を振る。
もう一枚紙を取り出して、今度は逆に書く。

「まだわからないかい?」
譲は、もう一枚紙を取って、また書いた。

明貞は大きな口を開けて、そう言った。
「ちょっと待て。今『田山花袋の日本一周』を出す」
明貞は隣のイスに置いたバッグを漁った。