ツェねずみ
-中里探偵事務所-

17
(ああ、ジャズを切ってほしい。何ていう曲なんだろうか。いい音だな。でも、今は邪魔。本当にいい音ではあるけれど。鴻上のことだから、ステレオも高級なんだろうな。)
考えは次から次へと移っていった。しかし、そのとき優果の頭に引っかかるものがあった。
(ステレオ。……ステレオか。そういえば、あのCDラジカセはいくらで売れたんだろう? その結果をまだ聞いてなかった。)
優果はオールドマーケットに探りを入れてみようと陽菜と言い合った夜のことを思い出した。そのとき陽菜はリサイクルショップに行くのならこのCDラジカセを売ってきてほしいと言って、優果にCDラジカセを渡した。所長に相談すると、所長は何かもっともらしい理由を言って、店の駐車場で山脇刑事にCDラジカセを渡して、優果はすぐに車で帰るように指示した。優果はCDラジカセのことはあまり気にかけていなかったから、そのまま忘れていたが、500円でも1000円でも売れたのなら、陽菜に渡さなければいけないと思った。それが頭のどこかに引っかかっていたのである。
陽菜が口を優果の耳に寄せてささやいた。
「チャンスよ。私が車を停めてもらうから、大塚さんはトイレに行きたいって言って、両手の毛糸を鴻上に渡してください。そしたら、私が鴻上の両手の自由を奪うから、あとは二人で一本ずつ鴻上の足を押さえます。方法と道具は私が全部用意してあるので、大塚さんは私の指示に従ってください。これで鴻上から本当のことを聞き出せます」
優果は何か言おうと思ったが、陽菜がまた元の位置に戻ったので、彼女の目を見てうなずくことしかできなかった。陽菜はウインクで返した。
「先生、どこかに車を停められますか。大塚さんがお手洗いに行きたいんですって」
「あっ、そう。……ちょっと待って。……あそこはどうかな。トイレがあるかもしれない。ちょっと、試しに入ってみよう」
車は海岸線沿いの空き地に入った。結構広い空き地で、奥の方は山の裏になっていて、道路からは見えなくなっていた。
優果はCDラジカセのことをまだ考えていた。
(CDラジカセのことはあれ以後、所長は話題にしない。それに、不思議なことに、陽菜も何も言わない。だから、私はお金を渡すことなんかもすっかり忘れていたのだ。何で所長は何も言わないのだろうか? 忘れているのだろうか? いや、そうではないと思う。もしかすると、所長はあのCDラジカセがほしかったのかもしれない。そして、そのことを私には言いたくなかったのかもしれない。何で? 陽菜が渡したCDラジカセに何か秘密があったのかしら。GPSが取り付けられていたとか? まさか?)
車は山の裏側をのろのろ進む。鉄の柵の向こう側は一面の海である。この施設ができたころはここから眺望を楽しむ人も多かったのではないかと思われるが、今はまったく人気を感じない。朽ちるに任せているような感じだ。階段から海側に少し降りたところに展望台もあるが、そこも荒れ果てていた。
優果は自分の考えに夢中になっていた。
(でも、もしかしたらGPSかもしれない。でも、何のため? 大塚優果の自宅とか大塚優果が立ち入る場所とかを探るため? そう言えば、所長は、あの日、足利駅に着いたら、どこへも寄らずにオールドマーケットに行くように指示した。私の車まで駅に運んでくれた。オールドマーケットの裏の仕事をつかむためには、少しも時間を無駄にできないからだと言われて私も納得した。それもあると思うけど、もう一つは、私が中里探偵事務所とか自宅とかに寄るとまずいからというのがあったのかもしれない。そのことを私に伝えることは、陽菜を疑っていることを私に知られることにもなるから、言えなかったのかもしれない。うーん、なるほど、確かにそういうことかもしれない。だけど、本当にあのCDラジカセにはGPSが取り付けられていたのかな? 考えすぎかな? ところで、ここはどこ? 道の駅? 駐車場? すごい高い崖。海が下の方に見える。)
考えは次から次へと移っていった。しかし、そのとき優果の頭に引っかかるものがあった。
(ステレオ。……ステレオか。そういえば、あのCDラジカセはいくらで売れたんだろう? その結果をまだ聞いてなかった。)
優果はオールドマーケットに探りを入れてみようと陽菜と言い合った夜のことを思い出した。そのとき陽菜はリサイクルショップに行くのならこのCDラジカセを売ってきてほしいと言って、優果にCDラジカセを渡した。所長に相談すると、所長は何かもっともらしい理由を言って、店の駐車場で山脇刑事にCDラジカセを渡して、優果はすぐに車で帰るように指示した。優果はCDラジカセのことはあまり気にかけていなかったから、そのまま忘れていたが、500円でも1000円でも売れたのなら、陽菜に渡さなければいけないと思った。それが頭のどこかに引っかかっていたのである。
陽菜が口を優果の耳に寄せてささやいた。
「チャンスよ。私が車を停めてもらうから、大塚さんはトイレに行きたいって言って、両手の毛糸を鴻上に渡してください。そしたら、私が鴻上の両手の自由を奪うから、あとは二人で一本ずつ鴻上の足を押さえます。方法と道具は私が全部用意してあるので、大塚さんは私の指示に従ってください。これで鴻上から本当のことを聞き出せます」
優果は何か言おうと思ったが、陽菜がまた元の位置に戻ったので、彼女の目を見てうなずくことしかできなかった。陽菜はウインクで返した。
「先生、どこかに車を停められますか。大塚さんがお手洗いに行きたいんですって」
「あっ、そう。……ちょっと待って。……あそこはどうかな。トイレがあるかもしれない。ちょっと、試しに入ってみよう」
車は海岸線沿いの空き地に入った。結構広い空き地で、奥の方は山の裏になっていて、道路からは見えなくなっていた。
優果はCDラジカセのことをまだ考えていた。
(CDラジカセのことはあれ以後、所長は話題にしない。それに、不思議なことに、陽菜も何も言わない。だから、私はお金を渡すことなんかもすっかり忘れていたのだ。何で所長は何も言わないのだろうか? 忘れているのだろうか? いや、そうではないと思う。もしかすると、所長はあのCDラジカセがほしかったのかもしれない。そして、そのことを私には言いたくなかったのかもしれない。何で? 陽菜が渡したCDラジカセに何か秘密があったのかしら。GPSが取り付けられていたとか? まさか?)
車は山の裏側をのろのろ進む。鉄の柵の向こう側は一面の海である。この施設ができたころはここから眺望を楽しむ人も多かったのではないかと思われるが、今はまったく人気を感じない。朽ちるに任せているような感じだ。階段から海側に少し降りたところに展望台もあるが、そこも荒れ果てていた。
優果は自分の考えに夢中になっていた。
(でも、もしかしたらGPSかもしれない。でも、何のため? 大塚優果の自宅とか大塚優果が立ち入る場所とかを探るため? そう言えば、所長は、あの日、足利駅に着いたら、どこへも寄らずにオールドマーケットに行くように指示した。私の車まで駅に運んでくれた。オールドマーケットの裏の仕事をつかむためには、少しも時間を無駄にできないからだと言われて私も納得した。それもあると思うけど、もう一つは、私が中里探偵事務所とか自宅とかに寄るとまずいからというのがあったのかもしれない。そのことを私に伝えることは、陽菜を疑っていることを私に知られることにもなるから、言えなかったのかもしれない。うーん、なるほど、確かにそういうことかもしれない。だけど、本当にあのCDラジカセにはGPSが取り付けられていたのかな? 考えすぎかな? ところで、ここはどこ? 道の駅? 駐車場? すごい高い崖。海が下の方に見える。)