ツェねずみ
-中里探偵事務所-

探偵
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 旧友が家に持ち帰った遺品を一つ一つ見ていると、手帳が出てきた。そこに「神戸大学 島田恵利」と書いてあった。どこかで見たような気がしたが、そのときはわからなかった。そのあと家族でテレビを見ていると「島田恵利」という名前が出て来た。八月に神戸で轢き逃げされた女子大生だった。事故から一か月経つがまだ手がかりが見つかっていないという内容だった。旧友はその瞬間から心臓が激しく脈打ちどうにも抑えられなかった。なぜ轢き逃げされた女子大生の名前が恋人の手帳に恋人の筆跡で書かれていたのか。なぜ恋人は突然借金の返済を終えることができたのか。なぜ恋人は神戸大学の女子大生と同じように轢き逃げされて死亡したのか。こんなことを優果に話しても仕方ないことだけど、話さずにはいられなくなっちゃって、思わず話してしまったのと、旧友は言った。
 大塚優果は旧友に頼まれたわけではないが、正規の就職先が決まるまでは当分暇だし、神戸大学には友人がいるし、こういうことを調べるのがどちらかというと好きな方だし、そんなこんなで探偵のまねごとを始めることにした。

 優果は話し終わって、我ながらよくできたと思った。もちろんたたき台はすでに作ってあったし、所長にも見てもらってはいたが。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ツェねずみ-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2019年3月