ツェねずみ
-中里探偵事務所-

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場面67
女は男にだけ優しいのだなあ林京子
『祭りの場』
運転席から振り向いたままの姿勢で鴻上が優果の顔を見つめていた。優果の話が終わると陽菜が口を開いた。
「その旧友にあなたの行動は知らせてあるの?」
「いいえ。彼女は私に何も頼んでないわ。私が勝手にやっているだけなんです」
鴻上が厳しい表情で優果にきいた。
「大塚さんはなぜこんなことを調べようと思ったんですか」
「もしかしたら旧友の恋人は恵利さんの轢き逃げ事故に関わっていないかも知れないと思ったんです。もしそうだとすれば旧友の不安を解消してあげられるじゃないですか」
鴻上は先ほど奪った優果のスマートフォンを出した。
「そのご友人の番号は登録してありますか」
「はい」
(所長、すごい。本当にこういう展開になった。)
「ご友人のお名前を教えてもらえますか」
「永井真弓です」
鴻上はスマホをしばらくいじっていた。
「うそじゃないみたいですね」
(あー、よかった。所長のお知り合いに友人役を引き受けてもらって、何度か実際に電話のやりとりをしておいたのは、やっぱり正解だったんだわ)
永井真弓役は鑑識係の神村美由紀だった。
鴻上は履歴で永井真弓とどのくらい頻繁に連絡を取り合っているのか確認していたが、一週間以上前には遡れないので、すぐにあきらめた。
「まめに履歴を削除しているみたいですね」
「はい、習慣なので」
鴻上は怒ったような顔で陽菜を見た。陽菜も険しい顔をしていた。永井という女に電話を掛けさせてみようかどうしようかとしばらく二人でもめた挙げ句、そのことは結局断念した。
「じゃあ、あなたがその友達の彼氏のことを調べていることを知っている人は、一人もいないのね」
「ええ、そうです」
優果はいかにも不安そうに言った。
陽菜と鴻上はまたしばらく協議を始めた。議題はスマホの電話帳に登録されている人物についてだった。そこには家族や友人の電話番号が登録されていたが、譲を含めた警察関係者のものは一切登録されていなかった。それらは山野聡子の部屋に置いてきたもう一台のスマホに登録してある。陽菜と鴻上は根気よく一人一人の人物について優果に説明を求めた。優果は何の苦労もなく事実を説明すればよかった。
(所長、ありがとう。)