ツェねずみ
-中里探偵事務所-
25
陽菜と鴻上は考えられることはすべてし尽くしたという心境になったのか、急に力が抜けたようになり、妙に和やかに会話を始めた。
「大塚さん、よくわかったわ。正直に話してくれてありがとう」
「本当に、君に対する心配はすっかりなくなったよ」
「ねえ、先生、どうかしら? せっかく大塚さんが私たちに正直に話してくれたんだから、お返しに私たちも正直にすべて話してあげるのは」
「あ、それはいいね。大塚さんの僕たちに抱いている疑問が解明されれば、すっきりして気持ちよくなるだろうからね」
「そう、すっきり気持ちよくさせてあげましょうよ。ねえ、大塚さん、すっきりしたいでしょう?」
優果は神妙な顔で、ええ、と言った。
「初めに謝らなければならないのだけど、実は、私、鴻上先生に敵討ちするんだって言ってたけど、嘘なの……。あ、やだ、私ったらばかみたい。そんなこと言わなくても、賢い大塚さんだから、もう知っていたわよね?」
優果は無言でうなずいた。
「敵討ちどころか、私、鴻上先生のことをとっても愛してるの。だから、鴻上先生に迫ってくる女の人が出てきたりすると、本気で怒っちゃうのよ。私が初め大塚さんに会ったときに機嫌が悪かったのは、それでなのよ。……。ええ、奥さんがいるって言いたいんでしょ。ご心配はいらないわ。鴻上先生はもうすぐ奥さんと別れるのよ。ね、先生」
「ああ」
「恵利って女はね、私と付き合う前に先生が付き合ってた頭のおかしな女なの。先生もそれはそれは困ってて、手を焼いてたの。ありもしないことをでっち上げて、訴えるなんて言ってさ。私に焼き餅焼いたんだと思うけどね。先生に言われて堕ろした子供のことで法外に高額な慰謝料を要求したんですって。あんな蓮っ葉女の子供の父親なんか誰だかわかるもんですか。お金のことだけじゃなくて、そんなことが人に知られたら、今の世の中すぐネットで広まっちゃうから、そうなれば大学もやめさせられるかもしれないし、……とにかく私たち二人で頭を抱えていたのよ。せっかく奥さんとの別れ話が順調に進んできたのに、あの疫病神がそれを邪魔するんですもの。そしたら栃木県の何市だっけな、まあ、いいや、何とか市のリサイクルショップを見つけたってわけ。業務の代行をしてくれるんですって。どんなことでも。素敵でしょ? だから、私、それを先生に教えたの。先生も面白がってくれて、冗談半分で邪魔なやつに事故に見せかけてこの世からいなくなってもらう方法を考えたの。業務の代行さんに神戸まで来てもらって街をぶらぶらしてもらうの。代行さんは何かにつまずいて、たまたま通りかかった恵利にぶつかっちゃうかもしれない。意外と当たりが強かったせいか、恵利は車道に倒れちゃうかもしれない。そこへたまたま通りかかった車が恵利を轢いちゃうかもしれない。前途有望な女子大生が交通事故で死亡。〈前途有望の〉じゃなくて〈名門大学の〉かな? 〈難関国立大学の〉かな? まあ、いいや。とにかくそんな記事がヤフーのニュースとかに流れて、恵利はみんなから同情されるの。そして、先生と私は涙を流して葬儀に参列するのよ。おかしくて私たち笑いながら抱き合ったわ。ベッドの中で私、だんだん本気になっていったの。私、興奮して言ったわ。ねえ、先生、そんなことはできるはずがないことはわかってるけど、仮にやってみたらどうなるか試すだけ試してみてはどうかしら? 先生は怒ったわ。そんなことできるわけないだろ、もう絶対にそんなことは口にするなよって。
「大塚さん、よくわかったわ。正直に話してくれてありがとう」
「本当に、君に対する心配はすっかりなくなったよ」
「ねえ、先生、どうかしら? せっかく大塚さんが私たちに正直に話してくれたんだから、お返しに私たちも正直にすべて話してあげるのは」
「あ、それはいいね。大塚さんの僕たちに抱いている疑問が解明されれば、すっきりして気持ちよくなるだろうからね」
「そう、すっきり気持ちよくさせてあげましょうよ。ねえ、大塚さん、すっきりしたいでしょう?」
優果は神妙な顔で、ええ、と言った。
「初めに謝らなければならないのだけど、実は、私、鴻上先生に敵討ちするんだって言ってたけど、嘘なの……。あ、やだ、私ったらばかみたい。そんなこと言わなくても、賢い大塚さんだから、もう知っていたわよね?」
優果は無言でうなずいた。
「敵討ちどころか、私、鴻上先生のことをとっても愛してるの。だから、鴻上先生に迫ってくる女の人が出てきたりすると、本気で怒っちゃうのよ。私が初め大塚さんに会ったときに機嫌が悪かったのは、それでなのよ。……。ええ、奥さんがいるって言いたいんでしょ。ご心配はいらないわ。鴻上先生はもうすぐ奥さんと別れるのよ。ね、先生」
「ああ」
「恵利って女はね、私と付き合う前に先生が付き合ってた頭のおかしな女なの。先生もそれはそれは困ってて、手を焼いてたの。ありもしないことをでっち上げて、訴えるなんて言ってさ。私に焼き餅焼いたんだと思うけどね。先生に言われて堕ろした子供のことで法外に高額な慰謝料を要求したんですって。あんな蓮っ葉女の子供の父親なんか誰だかわかるもんですか。お金のことだけじゃなくて、そんなことが人に知られたら、今の世の中すぐネットで広まっちゃうから、そうなれば大学もやめさせられるかもしれないし、……とにかく私たち二人で頭を抱えていたのよ。せっかく奥さんとの別れ話が順調に進んできたのに、あの疫病神がそれを邪魔するんですもの。そしたら栃木県の何市だっけな、まあ、いいや、何とか市のリサイクルショップを見つけたってわけ。業務の代行をしてくれるんですって。どんなことでも。素敵でしょ? だから、私、それを先生に教えたの。先生も面白がってくれて、冗談半分で邪魔なやつに事故に見せかけてこの世からいなくなってもらう方法を考えたの。業務の代行さんに神戸まで来てもらって街をぶらぶらしてもらうの。代行さんは何かにつまずいて、たまたま通りかかった恵利にぶつかっちゃうかもしれない。意外と当たりが強かったせいか、恵利は車道に倒れちゃうかもしれない。そこへたまたま通りかかった車が恵利を轢いちゃうかもしれない。前途有望な女子大生が交通事故で死亡。〈前途有望の〉じゃなくて〈名門大学の〉かな? 〈難関国立大学の〉かな? まあ、いいや。とにかくそんな記事がヤフーのニュースとかに流れて、恵利はみんなから同情されるの。そして、先生と私は涙を流して葬儀に参列するのよ。おかしくて私たち笑いながら抱き合ったわ。ベッドの中で私、だんだん本気になっていったの。私、興奮して言ったわ。ねえ、先生、そんなことはできるはずがないことはわかってるけど、仮にやってみたらどうなるか試すだけ試してみてはどうかしら? 先生は怒ったわ。そんなことできるわけないだろ、もう絶対にそんなことは口にするなよって。