ツェねずみ
-中里探偵事務所-

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でもね、何日か経って、先生もだんだん考えが変わっていったの。私たちが陥っている苦境から脱する方法はなかなか見当たらなかったし、試してみて無理そうならやめればいいって、先生も思うようになっていったの。「業務の代行」の会員登録は私のアパートの私のノートパソコンでしたのよ。大塚さんに無駄なことさせちゃったわね。先生の研究室にある先生のパソコンのインターネット履歴を調べたって何の意味もないはずよね。それでね、思ってた以上にスムーズに依頼の手続きも進み、ついに業務の代行さんと神戸の喫茶店で会うことになったの。その日のうちに半分お金を渡すと、代行さんは本当に実行してくれちゃった。よっぽどお金に困っていたんでしょうね。うん、たしかに大学生っぽかったわ。大塚さんのご友人の彼氏だったのかもしれないわね。残りのお金は指定の口座に振り込んだ。あ、言い忘れたけど、あとでトラブルがないように、お互いの住所と氏名を交換することになってたのよ。私は鴻上先生の住所と氏名を渡した。私は代理人だと言ったら、彼は何もきかなかったわ。それから、彼に電話をした。えーと、電話番号も交換するルールになってたの。私は、あなたみたいな男の人が割と好みよって言った。これも先生と練ったシナリオなの。相手を油断させるためにできる限りのことをした方がいいってことになったの。栃木県の佐野市だったっけ、私は一人で代行さんに会いに行ったわ。彼が何を考えているかは顔にはっきり書かれていたわ。彼は私を彼の部屋に連れて行ってくれた。彼の車の中で私の目に夕日が差し込んでまぶしかったのを覚えているわ。アパートの駐車場に車を停めて、部屋に入る途中で、私はコンビニに行きたいと言ったの。彼はコンビニに連れて行ってくれた。大通りに出て少し歩くとワンボックスカーが路上駐車していたわ。私はバッグからお財布を出して、ワンボックスカーの前にわざと落としたの。あー、お財布落としちゃったーって、かわいらしい声で騒ぐと、私の言うことだったら何でも聞いてもいいという心理状態になっていた彼が、俺が取ってあげるよって優しく言って、腰をかがめたの。順調にいくときって、何でも思い通りになるのね。ちょうど頼もしいSUBが勇ましく走ってきてくれたの。私、渾身の力を込めて両手で彼の背中を押したの。彼の体は意外と軽々と道路の真ん中辺まで飛んでいったわ。彼がSUBも通過して向こう側の歩道まで横断しちゃうんじゃないかと思って、私、すっごく不安になったの。でも、大丈夫だった。その瞬間に、いやあな音を立てて彼の体をタイヤが踏みつぶしたの。ほんの一瞬の出来事だったから、詳しいことは全然わからなかった。私はもう財布を持って、脇道に入ってた。