ツェねずみ
-中里探偵事務所-

27
無我夢中で歩いて、気付いたら佐野駅にいた。電車の中でイヤホンをして、スマホでニュースを見た。彼が死亡したと聞いて、心から安心したわ。私の名前は彼は知らないからいいけど、鴻上先生の名前が出たらどうしようってすごく心配になった。でも出なかった。彼とは今回のことがもし誰かに知られたら大変なことになるから、住所とか名前とかが書いてあるものは、全部処分したり消去したりしようって言ってあったから、まあ、大丈夫とは思っていたけど、彼は、その辺のところはさすがにきちんとしていたのね。そのうちに代行さんの事故についても世間で騒がなくなった。恵利の事故についても騒がなくなった。もう大丈夫と思っていたら、栃木県から変な女がやってきて、鴻上先生の周りをコソコソかぎ回り出した。大塚さん、あなたのことよ。大塚さん、悪いけど、あなたのことはいろいろ調べさせてもらったわ。ほら、鴻上先生、大学教授だから、大学関係にコネクションがあるのよ。明治大学にも友達がいるのよ。明治大学を卒業して自分の聴講生になりたい人がいるって言ったら、あなたのことをいろいろ教えてくれたんですって。ご家族の名前もわかっているのよ。就活に失敗したって言ってたけど、警察を受けたんですってね。落ちちゃったんですって? かわいそうに。でも、それでこんな探偵まがいのことが好きなのかしら? 来年も受けられるといいわね。合格することを心から祈ってるわ」
陽菜は鴻上を見た。
「じゃあ、先生」
鴻上はうなずいて車から降りて、優果の席のドアを開けた。陽菜も車から降りて鴻上の横に立った。二人は優果の体を持ち上げて、外に出した。青いシュラフに丁寧に優果の体を入れた。どこにも傷が付かないように配慮しているみたいだった。優果の体が完全にシュラフに入ると、二人はあたりを歩き回って石をたくさん持ってきた。優果の体とシュラフの間に冷たくて固いものが次々にはさまった。もうシュラフも優果の体も雪に覆われていた。
優果はこれからのことを想像した。
(あと数分すると、二人は私の入ったシュラフを持ち上げて、岸壁まで運ぶだろう。岸壁に着いたら、シュラフの両端に結びつけられたロープを柵に固定するだろう。そして、ロープをしっかり握って、ゆっくりとシュラフを海に降ろすだろう。だんだん波の音が強くなっていき、シュラフが着水する音が聞こえてくるだろう。水がシュラフの中に入ってきて、洋服も濡れるだろう。シュラフの中は冷たい海水で一杯になり、私は奇跡を願いながら呼吸を止めているだろう)
優果がそこまで想像したとき、急に体が軽くなった。持ち上げられたのだ。そして、慎重にゆっくりと体が運ばれていく。
陽菜は鴻上を見た。
「じゃあ、先生」
鴻上はうなずいて車から降りて、優果の席のドアを開けた。陽菜も車から降りて鴻上の横に立った。二人は優果の体を持ち上げて、外に出した。青いシュラフに丁寧に優果の体を入れた。どこにも傷が付かないように配慮しているみたいだった。優果の体が完全にシュラフに入ると、二人はあたりを歩き回って石をたくさん持ってきた。優果の体とシュラフの間に冷たくて固いものが次々にはさまった。もうシュラフも優果の体も雪に覆われていた。
優果はこれからのことを想像した。
(あと数分すると、二人は私の入ったシュラフを持ち上げて、岸壁まで運ぶだろう。岸壁に着いたら、シュラフの両端に結びつけられたロープを柵に固定するだろう。そして、ロープをしっかり握って、ゆっくりとシュラフを海に降ろすだろう。だんだん波の音が強くなっていき、シュラフが着水する音が聞こえてくるだろう。水がシュラフの中に入ってきて、洋服も濡れるだろう。シュラフの中は冷たい海水で一杯になり、私は奇跡を願いながら呼吸を止めているだろう)
優果がそこまで想像したとき、急に体が軽くなった。持ち上げられたのだ。そして、慎重にゆっくりと体が運ばれていく。