ツェねずみ
-中里探偵事務所-

31
駐車場には一人分の足跡が付いていた。二人が進むと、二㎝ぐらい積もった雪に三人分の足跡が残った。
昔ドライブインだった建物と道路際の植え込みの間に軽が停まっていた。どこにでもあるような普通の軽だった。どのタイヤがパンクしているのか陽菜にはわからなかった。しかし、車の整備にまったく関心のない陽菜には、車がパンクをするとどうなるのかが経験的にわからなかった。何の疑いも持たず陽菜は女にきいた。
「どのタイヤがパンクしてるんですか」
「向こう側の後ろのタイヤなんです。軽だからちょっとわかりづらいと思うんですけど」
陽菜はそんなものなのかなと思いながら向こう側に回った。一見後輪がパンクしているようには見えなかった。きっと小さい穴があいたばかりなのかもしれない。それで、外見上はよくわからないのかもしれない。そう勝手に判断した。
女は少しかがんで指さした。
「ほら、ここに穴があいてるでしょ」
陽菜はしゃがみ込んで顔を近づけた。顔に柔らかいものがかかるので、驚いて振り向くと、女が、
「どうぞマフラーをお使いください。雪がこんなに降って、今日は本当に寒くなりましたね」
と言うと、陽菜は女の好意を素直に受け取った。
「わあ、暖かい。ありがとうございます」
陽菜が斜め上を見上げると、女がにっこり笑った。
「どういたしまして、根本陽菜さん、あなたを殺人教唆の容疑で逮捕します」
「え?」
陽菜がそう言った瞬間には、もう両手が後ろに回され、手錠がはまっていた。大声をあげようとしたとたんにマフラーがきつく締めつけられて、口もとがふさがり、遠くに聞こえるような声を出すことはとてもできなかった。ビビビビビというすごい音がして、マフラーの上から粘着テープをぐるぐる巻かれた。全力で抵抗したが、ほっそりした女の強くしなやかな動きによって、いとも簡単に自動車の後部座席に座らせられてしまった。膝の上に何か軽いものが乗っかった。写真と紙だった。
「NEW YORKのTシャツよく似合ってるわよ、グレープメニューさん」
「何で?」という目で陽菜は女を見た。
「あなたとても賢いわね。このメールを見つけるの本当に大変だったんだから。栃木県警の警官たちがみんな頭を抱えたのよ」
(セーターの毛糸で大塚優果を拘束した私が、毛糸のマフラーで拘束されるなんて、偶然かしら?)
昔ドライブインだった建物と道路際の植え込みの間に軽が停まっていた。どこにでもあるような普通の軽だった。どのタイヤがパンクしているのか陽菜にはわからなかった。しかし、車の整備にまったく関心のない陽菜には、車がパンクをするとどうなるのかが経験的にわからなかった。何の疑いも持たず陽菜は女にきいた。
「どのタイヤがパンクしてるんですか」
「向こう側の後ろのタイヤなんです。軽だからちょっとわかりづらいと思うんですけど」
陽菜はそんなものなのかなと思いながら向こう側に回った。一見後輪がパンクしているようには見えなかった。きっと小さい穴があいたばかりなのかもしれない。それで、外見上はよくわからないのかもしれない。そう勝手に判断した。
女は少しかがんで指さした。
「ほら、ここに穴があいてるでしょ」
陽菜はしゃがみ込んで顔を近づけた。顔に柔らかいものがかかるので、驚いて振り向くと、女が、
「どうぞマフラーをお使いください。雪がこんなに降って、今日は本当に寒くなりましたね」
と言うと、陽菜は女の好意を素直に受け取った。
「わあ、暖かい。ありがとうございます」
陽菜が斜め上を見上げると、女がにっこり笑った。
「どういたしまして、根本陽菜さん、あなたを殺人教唆の容疑で逮捕します」
「え?」
陽菜がそう言った瞬間には、もう両手が後ろに回され、手錠がはまっていた。大声をあげようとしたとたんにマフラーがきつく締めつけられて、口もとがふさがり、遠くに聞こえるような声を出すことはとてもできなかった。ビビビビビというすごい音がして、マフラーの上から粘着テープをぐるぐる巻かれた。全力で抵抗したが、ほっそりした女の強くしなやかな動きによって、いとも簡単に自動車の後部座席に座らせられてしまった。膝の上に何か軽いものが乗っかった。写真と紙だった。
「NEW YORKのTシャツよく似合ってるわよ、グレープメニューさん」
「何で?」という目で陽菜は女を見た。
「あなたとても賢いわね。このメールを見つけるの本当に大変だったんだから。栃木県警の警官たちがみんな頭を抱えたのよ」
(セーターの毛糸で大塚優果を拘束した私が、毛糸のマフラーで拘束されるなんて、偶然かしら?)