ツェねずみ
-中里探偵事務所-

33
亜沙子はじりじりと鴻上に近づいた。鴻上は柵を乗り越えた。亜沙子も柵を乗り越えた。鴻上は岸壁の上に立っていた。足元にはシュラフがある。足を上げてシュラフを蹴り落とそうとした瞬間、鴻上のくるぶしに黒っぽい棒のようなものが当たった。ヌンチャクだった。紐で繋がった短い棒が亜沙子の技で一本の棒になったのだ。バランスを崩しながらも再びシュラフに近づこうとした鴻上の足元にヌンチャクが飛んできたので、なかなか近づくことができなかった。いらだった鴻上はポケットからナイフを出した。亜沙子は、ヌンチャクを両手に持って、素早く動かした。鴻上がナイフを亜沙子の胸に突き出した。亜沙子は、それをヌンチャクで叩き落とした。鴻上は殴りかかってきた。彼の拳が亜沙子の顔に届きそうになったが、その時にはすでに頭部や腹部を固い棒で乱打された鴻上が、あっという間にその場にしゃがみ込んだと思うと、身動きできなくなってしまった。亜沙子は鴻上の右腕を後ろに強くねじった。鴻上が鋭い悲鳴を上げた。両手首に手錠がはめられた。亜沙子は鴻上を柵に勢いよく押し付けた。鴻上は痛そうな声を発した。そして、力なく柵にもたれかかった。亜沙子は容赦しなかった。ヌンチャクを鴻上の脇腹にぐいぐい押し付け、柵を乗り越えるように命じた。鴻上は情けない声を出しながら、しかも、亜沙子に手伝ってもらいながら、ようやく柵を越え、アスファルトの上にぶざまに転がった。
亜沙子は鴻上を足で蹴って、四、五メートルも転がすと、左手の手錠を外して、錆びた電灯の柱にはめてから、本部に応援を要請し、また柵を乗り越えた。シュラフを開いた。口にタオルを突っ込まれた上から紐で縛られ、両手両足をロープで固定された優果が、涙を流していた。両手と両足のロープは、背中側でさらに他のロープで繋がれていた。なるほどシュラフの外観からは優果の安否が確認できないわけだと亜沙子は納得した。優果を自由にすると、亜沙子にしがみつき、泣きながら感謝した。遠くからサイレンの音が聞こえてきた。少しでも雪を避けようと思い、亜沙子は優果を連れて、軽自動車の方へ向かった。ラベルのボレロのように次第に音が大きくなってきた。亜沙子は軽自動車の前の席に優果を乗せた。サイレンの音はますます大きくなってきた。しかも増えてきた。かなりの台数である。後ろの席ではすっかり観念したように、陽菜が小さく顔を伏せて座っていた。亜沙子は陽菜の隣に座り、粘着テープを剥がして、マフラーをほどいてやった。しかし、彼女は何も言わなかった。鴻上を連れてくるか迷ったが、必要ないと判断した。個人的には海に突き落としてしまいたい気分であった。雪で凍え死ぬまで応援が来なければいいとも思った。何なら隣に陽菜を手錠で繋いでおいてやってもいいとさえ思った。
亜沙子は鴻上を足で蹴って、四、五メートルも転がすと、左手の手錠を外して、錆びた電灯の柱にはめてから、本部に応援を要請し、また柵を乗り越えた。シュラフを開いた。口にタオルを突っ込まれた上から紐で縛られ、両手両足をロープで固定された優果が、涙を流していた。両手と両足のロープは、背中側でさらに他のロープで繋がれていた。なるほどシュラフの外観からは優果の安否が確認できないわけだと亜沙子は納得した。優果を自由にすると、亜沙子にしがみつき、泣きながら感謝した。遠くからサイレンの音が聞こえてきた。少しでも雪を避けようと思い、亜沙子は優果を連れて、軽自動車の方へ向かった。ラベルのボレロのように次第に音が大きくなってきた。亜沙子は軽自動車の前の席に優果を乗せた。サイレンの音はますます大きくなってきた。しかも増えてきた。かなりの台数である。後ろの席ではすっかり観念したように、陽菜が小さく顔を伏せて座っていた。亜沙子は陽菜の隣に座り、粘着テープを剥がして、マフラーをほどいてやった。しかし、彼女は何も言わなかった。鴻上を連れてくるか迷ったが、必要ないと判断した。個人的には海に突き落としてしまいたい気分であった。雪で凍え死ぬまで応援が来なければいいとも思った。何なら隣に陽菜を手錠で繋いでおいてやってもいいとさえ思った。