ツェねずみ
-中里探偵事務所-

探偵
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場面72

渡辺はしばらくなにを思うともなく、なにを見聞くともなく、ただ煙草をのんで、体の快感を覚えていた。
森鴎外
『普請中』

「へえ、その男、そんなこと言ったのか。本当に胸くそが悪くなるやつだな。ああ、ツェねずみか、俺も知ってるよ。うん、そうだな。たしかに、ツェねずみみたいだな。ああ、いいことを思い付いた。それ、作品になるかも。ちょっと、評論風の小説って感じかな。いやあ、俺さ、クニッゲの『交際法』を森鴎外が訳したのを読んだことがあってね。その『交際法』の中に、ツェねずみみたいなやつが出てくるんだよ。よし、決めた! それ、ちょっと、書いてみよう」
 譲が揚げた海老と鱚の天麩羅をつまみに、亜沙子がついだ日本酒を口に含んで、彼らのリビングで暖まっていい気持ちになりながら、明貞は次作の構想を膨らませた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ツェねずみ-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2019年3月