世界の街角から
(インド編)

インド旅行
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ホテル、ル・メルディアン・ニューデリー

 チョーハンさんはなかなか礼儀正しい紳士である。だが、クリーム色の車は妙な感じがした。クーラーはきくし、デラックスには違いないし、また(当時の)インドでクーラー付きの自動車を持つこと自体が豪華なことなのだろうが、それにしても車内には余分なものが何もない。シートベルトすらない。よく言えば、すっきりとして機能的、悪く言えば、がらんとして興ざめな感じなのである。極めつけに、運転手がターバンを巻いたシーク教徒で、恐そうな感じがする男だった。近畿日本ツーリストが、どのくらいの拘束力で現地係員を雇うのかわからないが、まったく不審感を残さずに旅を始めるわけにはいかなかったのも事実である。もちろんこのときの印象は、旅が深まるにつれて、撤回する材料しか見あたらなくなってしまうことを先に書いておかなければならない。日本スタイルを持ち出して、インドスタイルを語ることは、甚だ礼儀に反している。
 それにしても運転の仕方の乱暴さには閉口した。ビービー、ひっきりなしにクラクションを鳴らして、自転車、オートリクシャー、人などをかき分け、かき分け、または、バスや他の車を追越し割り込み、日本人のマナーのよい運転(?と思えてしまえる)と比べると、生きた心地などなかった。あとでわかったが、このターバンの運転手に限らず、(当時の)インドの交通マナーはこういうものであった。安全に関する価値観が日本とは違うのかもしれない。
 広い道を右折する。それも、対向する、自動車、オートリクシャー、バイクを全部堰止めてである。そして、見るからにインドの庶民の生活からほど遠い印象を受ける、ゴージャスなホテル、ル・メルディアン・ニューデリーの門をくぐった。豪壮華麗の一言である。正面玄関にターバンを巻いた軍人風の大男が姿勢よく立っている。ロビーが広い。スーツを着たビジネスマンが立ち話をしている。欧米人。インド人。日本人。インド人の紳士は必ず、あでやかなサリーをまとった御婦人をつれている。
 地球の歩き方を読んだときは信じられなかったが、サリーはおなかが出てしまう衣装で、正面を向いて立っているときは見えないが、後向きや座っているときには、それがはっきりわかる。しかし、中年のインド女性はまったく気にしていないように見えた。足を出すのが恥ずかしいインド女性。おなかを出すのに抵抗を感じる日本女性。風習の違いはまことに不思議だ。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(インド編)
◆ 執筆年 2013年1月24日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2011年4月から2013年1月まで連載した紀行文