世界の街角から
(インド編)

インド旅行
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 チェックインは全てチョーハンさんがしてくれた。ロビーで待っていると、インド人の給仕がすぐに寄ってきて。「紅茶を入れましょうか」という。チョーハンさんが気づいて冷淡に「NONE.」と言うと、さっと給仕は身を引いた。日本人にはその呼吸をつかむのが難しい感じだ。
 明日はガンジーを火葬したラージガートやムガル帝国の皇帝シャー・ジャハーンが建てたレッドフォート(2007年に世界遺産に登録された)など、デリー市内を例の車で回る予定である。朝何時に待ち合わせるかなどの打ち合わせを済ませると、チョーハンさんと別れ、エレベーターに乗った。すばやく赤い服のボーイが乗り込み、何階で止まるかと、私たちに尋ねた。とっさに言葉が出ないので、ルームキーを見せる。「OH! 1601」と言って、十六階の一号室までやってくる。戸惑いながらも、やりたいようにさせていると、部屋に入ってきていろいろ説明し出した。日本の温泉旅館などで仲居さんがいろいろ丁寧に説明してくれるのとは目的は違い、実はチップ目当てなのだ。私たちはチョーハンさんに、「インドにはチップの習慣があるから、ドアマンやポーターには5ルピーやってくれ」と教えられていたので、5ルピー渡して出て行ってもらおうとする。ところが、ボーイは苦笑しながら、「インドでは5ルピーはとても小額のお金だ」と言って、まったく部屋を出て行こうとしない。今度はバスルームに入ってトイレの使い方を説明しだす。相手にしないでいると、その内に水を流す音が聞こえて出てきた。これ以上チップがもらえそうにないということを悟ったらしく、やっとおとなしく部屋から出て行った。インドにやってきたなあと、しみじみ思い、どっと疲れる。
 部屋は豪華だが、設備は日本では中程度である。トイレは水洗。シャワーはホースがないので使いづらい。スイッチ、照明、鏡、窓、いずれもシンプル、飾り気がない。一つ一つの家具が大きい。なんとなくインドの匂いがする。コンセントはS型三穴式。アダプターを持参しなかったら、ドライヤーは宝の持ち腐れになるところであった。小型冷蔵庫の中は、コーラ、オレンジジュース、ミネラルウォーター、ビール、どれも高い。大きな窓が部屋にあり、そこから眺める夜景はよかった。窓もドアもすべて立付けが悪い。窓を開けるにも、少し持ち上げるようにしてやらないと開かない。全開にして見下ろすと、足がすくむ。窓の下にある壁が膝頭の下より低く、気をつけないと落ちてしまいそうだ。部屋を出て、二階のショッピングアーケードのウィンドウを見てまわる。外国人向けだから高いのだろうと思って中には入らなかったが、目の保養にはなった。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(インド編)
◆ 執筆年 2013年1月24日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2011年4月から2013年1月まで連載した紀行文