世界の街角から
(インド編)

インド旅行
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 ホテルに戻り、昼食をとる。ボリュームがあった。動けないほどに食べた。チキンのフライを三枚も食べた。
 食事に時間をかけすぎて、集合時間に遅れてしまった。チョーハンさんに申し訳ないと思いながらロビーに行くと、「車のブレーキが壊れたので、違う車を呼んだから、待ってて」と、逆に待たされる。内心、ほっとしている。ターバンを巻いた運転手より乱暴なドライバーは、インドでも少ないように思っていたからだ。あんな運転をすれば故障が多いに決っている。次はまともな運転手がくればよいが。そんなことを考えながらロビーに座り、ぼんやりホテルの内装を眺めていた。
 このホテル、ル・メルディアン・ニューデリーはスケールが大きい。ロビーが中庭のようになっていて、その周囲を十八階まで客室が囲んでいる。四面のひとつの中央にエレベーターがある。四台がしきりに上下運動している。エレベーターはガラス張りで、ロビーと噴水を見下ろすことができる。いちばん下まで降りると、噴水の池の中に沈んでしまう。あっと思うと扉が開き、ロビーのあちこちに立っている赤いユニホームのボーイが目に入る。
 新しい車が到着した。誠実そうなインド人が出迎えてくれた。程度のよい自動車である。クッションがよいし、こぎれいである。運転もターバンズカーに比べると穏やかであった。
 午後のニューデリー観光が始まった。
 ラクシュミー・ナーラーヤン寺院。
 イスラムの寺院には冷淡で、モスクの中に決して入ろうとしないチョーハンさん。このラクシュミー・ナーラーヤン寺院では、人が変わったように、愛敬たっぷりに面白い話をたくさん聞かせてくれた。生き物の像が多いヒンディーの寺院の方が拝みがいがあると言わんばかりだった。
 司祭と言おうか、お坊さんと言おうか、奥のラクシュミーとナーラーヤンの肖像の前に座っている人が、額に赤い粉(シンドゥール)を付けてくれる。チョーハンさんはたいそうありがたがっていた。私たちも10パイサのお賽銭をあげ、シンドゥールを付けてもらった。
 チョーハンさんは、シヴァ、ヴィシュヌ、カーリー、釈迦等の話をとてもわかりやすくしてくれた。すべては頭に入らなかったが、中心となるヒンディーの三神を理解できた。
 創りの神ブラフマン。守りの神ヴィシュヌ(この神がこの寺院の御本尊のひとつで、ナーラーヤンのことだ)。破壊の神シヴァ。
 ブラフマンは創りの神であり、すべての根本であるから、基本的に肖像化されて拝まれることはない。礼拝の対象になるのは、ヴィシュヌ、シヴァの二神である。そのため、ヒンディーの寺院の多くは、この二神のどちらかを本尊として奉っている。それら寺院の中でもっとも有名なのが、ラクシュミー・ナーラーヤン寺院ということだ。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(インド編)
◆ 執筆年 2013年1月24日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2011年4月から2013年1月まで連載した紀行文