世界の街角から
(インド編)

インド旅行
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 クトゥブ・ミナールは予期せずによいものを見たという感じがした。クトゥブ王の塔という意味である。奴隷王朝時代のものでイスラム様式とヒンディー様式が融合した建築だという。イスラム色の濃いクトゥブの塔なのに、チョーハンさんはとても丁寧に案内してくれた。意識に働きかけるものは、宗教のみならず、魅力も大きくある。あとで知りあったデリーのオートリクシャー・ワーラーは、しきりにクトゥブ・ミナールへつれて行きたがった。インド人の好む場所のひとつであるかもしれない。
 クトゥブのうしろに、建設を予定された塔の途中経過とも言うべき、アライ・ミナールがある。外壁をよじのぼって中に入っていくと、中にも塔が建っている。塔の中に塔がある。そういう印象だった。チョーハンさんの説明によると、内側の塔と外壁のあいだに、螺旋状の階段をつくる予定だったそうである。
 うわさに聞いた鉄柱があった。鉄柱を後ろ手で一廻しし抱けるか、試してみる。すると、親切な(?)インド人が無理矢理手を引っ張ってくっつけてくれた。少し痛かった。それでも、ストレッチだと思えば心地よかったが、しかし、その後がよくない。親切な(??)インド人が二人組になって寄ってきて、HELPをしたからチップをよこせという。ふざけるな! 頼みもしないうちに勝手にやったくせに。とは言わなかったが、親切の押売に閉口して、無視することにした。彼らはしばらく付きまとっていたが、金をもらえそうにないとあきらめたらしく、ようやく立ち去った。
 ちなみにこの鉄柱、妻はよく努力したが、結局届かなかった。手が届くと好運が訪れるという言い伝えがある。男性なら多くの人が好運を勝ち取ることができると思うが、女性にはいささか厳しいのではないか。
 ちなみに現在この鉄柱は柵に囲われていて手で触れることができない。
 ここでのエピソードもう一つ。
 到着直後、門の前に車をとめたとたん、絵はがき売りが寄ってきた。断り続けると、サービスだから持っていけと言う。「いらない」と言ってもしつこいので、仕方なく引き取ることにした。すると、今度はカジュラーホーの絵はがきを見せて、買ってくれと言う。もう無視して中に入ったが、引き取ったはがきを見ると、薄っぺらだが、二十枚もあって、写真もよくて、なかなか気に入った。ちょっとうれしかった。
 ところが門を出て車にもどると、さっきの商人がやってきて、売った絵はがきの金を払えと言いだした。「買ってない!」そう言い張っても、承知しないので、ポケットから出して、突っ返した。
 カード商人の要求金額は20ルピーだった。値切って買う価値はあったので、出発する間際だったのと、逆上していたのとで、精神的な余裕が失われてしまって、手に入れられなかったのは残念だった。はがきは欲しかったのだ。夜、メルディアン内の店で三枚買ったが、頑張って値切っても一枚八ルピーにしかならなかった。もっとも、厚手で、印刷もよく、上等の品だったが。日本人がインドで買い物をするのは本当に難しい。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(インド編)
◆ 執筆年 2013年1月24日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2011年4月から2013年1月まで連載した紀行文