世界の街角から
(インド編)

13
大理石でできた宮殿、アンベール城は、とても素晴らしかった。彫刻と壁にはめ込まれた数々の貴石が美しかった。
アンベール城で、チョーハンさんは、猿に豆やバナナをあげた。
「ヒンディー教の人は、動物に餌を施すことを、寺院にもうでるのと同じ意味に考えているのです」
ヒンディー教徒の習慣に関して、もうひとつエピソードを。
アンベール城のどこかの部屋に、土管を立てたようなものがあった。
「この中に守りの木を植えて、ヒンディー教の人は家族の健康を毎日祈るのです」
そのあとチョーハンさんは、人家などに守りの木が植わっているのを見かけると、指さして教えてくれた。
山の上の旧都、アンベール城。それが不便になり、新しく建設された都、ジャイプール。ラジャスタン州の州都である。中心はシティ・パレス。今もマハラジャが住んでいる。シティ・パレスは、もはや特権階級ではなくなったマハラジャが、税金対策のため一般公開している。博物館に展示されているものはすべて、マハラジャ一家の所有物だ。
工芸美術館では、ヒンディー教の聖典類に面白いものを見つけた。椰子を乾燥させて、厚紙のようにして、文字を書き、紙面の中央部に穴をあけ、紐で閉じる。ちょうど、中国の木簡のような感じである。「TAR PATRA」と呼ばれている。TARは椰子、PATRAは書簡という意味。これに、ヒンディーの聖典と言うべき、「マハーバーラタ」が記されていた。
「風の宮殿」は写真撮影だけで済まそうと、チョーハンさんは考えていたようだ。私も外からの眺めだけでいいと思っていた。しかし、妻はどうしても中に入りたいと言って譲らなかった。それで、「薄っぺらいだけで何もない」という「風の宮殿」に入場することになった。中に入って正解だった。見ておかなければ、今回のインド旅行の印象は15%パーセントぐらい薄まっていただろう。
宮廷の女性は自力で歩けないほど着飾っているので、階段を登れない。そのためスロープを造り、彼女らを車椅子に乗せて運んだのだそうである。
入り組んだスロープや廊下を歩いて最上階まで登り、窓からジャイプールの街をのぞき込んだ。
すべてピンク色に塗られた石の建物。オートリクシャーの停車場。黄と黒のツートンカラー。黒牛。茶牛。ウォーター売りのレモン。色とりどりのサリー屋。遠くには、平らに長い山並があり、アンベール城も見える。
ジャイプールは一九世紀にイギリス皇太子が訪問したとき、街中の建物をピンク色に塗った。それで「ピンク・シティー」と呼ばれている。その独特な景観は、今回訪れた三都市(デリー、ジャイプール、アグラ)で最も美しかった。
アンベール城で、チョーハンさんは、猿に豆やバナナをあげた。
「ヒンディー教の人は、動物に餌を施すことを、寺院にもうでるのと同じ意味に考えているのです」
ヒンディー教徒の習慣に関して、もうひとつエピソードを。
アンベール城のどこかの部屋に、土管を立てたようなものがあった。
「この中に守りの木を植えて、ヒンディー教の人は家族の健康を毎日祈るのです」
そのあとチョーハンさんは、人家などに守りの木が植わっているのを見かけると、指さして教えてくれた。
山の上の旧都、アンベール城。それが不便になり、新しく建設された都、ジャイプール。ラジャスタン州の州都である。中心はシティ・パレス。今もマハラジャが住んでいる。シティ・パレスは、もはや特権階級ではなくなったマハラジャが、税金対策のため一般公開している。博物館に展示されているものはすべて、マハラジャ一家の所有物だ。
工芸美術館では、ヒンディー教の聖典類に面白いものを見つけた。椰子を乾燥させて、厚紙のようにして、文字を書き、紙面の中央部に穴をあけ、紐で閉じる。ちょうど、中国の木簡のような感じである。「TAR PATRA」と呼ばれている。TARは椰子、PATRAは書簡という意味。これに、ヒンディーの聖典と言うべき、「マハーバーラタ」が記されていた。
「風の宮殿」は写真撮影だけで済まそうと、チョーハンさんは考えていたようだ。私も外からの眺めだけでいいと思っていた。しかし、妻はどうしても中に入りたいと言って譲らなかった。それで、「薄っぺらいだけで何もない」という「風の宮殿」に入場することになった。中に入って正解だった。見ておかなければ、今回のインド旅行の印象は15%パーセントぐらい薄まっていただろう。
宮廷の女性は自力で歩けないほど着飾っているので、階段を登れない。そのためスロープを造り、彼女らを車椅子に乗せて運んだのだそうである。
入り組んだスロープや廊下を歩いて最上階まで登り、窓からジャイプールの街をのぞき込んだ。
すべてピンク色に塗られた石の建物。オートリクシャーの停車場。黄と黒のツートンカラー。黒牛。茶牛。ウォーター売りのレモン。色とりどりのサリー屋。遠くには、平らに長い山並があり、アンベール城も見える。
ジャイプールは一九世紀にイギリス皇太子が訪問したとき、街中の建物をピンク色に塗った。それで「ピンク・シティー」と呼ばれている。その独特な景観は、今回訪れた三都市(デリー、ジャイプール、アグラ)で最も美しかった。