世界の街角から
(インド編)

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タージマハル
第五日目 7月26日(月)朝のジャイプールは一見無秩序に見えるが、狭い道を、急ぎゆくものとゆったり歩むものとが、互いに通い合うルールに則り、淀みない清い川のように流れている。道端では、家々から出てきた無数の主婦たちが、両手に持ったほうきでしきりに掃き清めている。
美しいジャイプールの街をあとにして、アグラまで車で走る。インド旅行に踏み切ったのは、アグラにあるタージマハルがどうしても見たかったからだ。高校生のとき、世界史の参考書にタージマハルが建築されたいきさつが書かれているのを読んで、いつか実物を見たいと思った。ひとりの王妃のために捧げられた世界一大きな墓所。ムガル皇帝シャー・ジャハーンにそれほどまで寵愛されたムムターズ・マハルという女性はいったいどんな人だったのだろうか。
タージマハルというと白い大きなドームが印象的だが、そのドームの内部は八角形になっている。部屋の中央部には、八角形のそれぞれの壁面に対応するようにして、八つの衝立がある。大理石でできたその衝立には精密な透かし彫が施されている。そして、衝立で囲われた内部に、ムムターズ・マハルとシャー・ジャハーンの棺がある。しかしこれは飾りのものなのだそうだ。本物は地下に安置してあるということだ。
タージマハルは、世界でもっとも規模の大きい、愛の表現法である。縦横約60m、高さ約60m。これがムムターズ・マハルを弔うためだけに造営されたのだ。
タージマハルの規模を把握するために、東大寺の大仏殿を想像して欲しい。タージマハルのほうが、二まわりぐらい、特に上に大きい感じ。四基の塔の部分を含めて比較すると、横も、タージマハルのほうが若干大きい。ただし、塔と本体のあいだがすかすかだから、容積で考えると、大仏殿のほうがあるかもしれない。大仏殿は、横86メートル、奥行50メートル、高さ38メートル。
写真だと、タージマハルはこじんまりと、愛らしい小品に見えるかもしれないが、いまの説明で、その規模の大きさがわかってもらえたのではないだろうか。
それから四隅の塔だが、これは見た目ではわかりにくいのだけれども、外側に少し傾いているそうだ。地震で塔が倒れても、廟本体に降り掛からないようにしたということである。
地下には本当の墓があるというので見にいった。部屋の中央に安置されているのはムムターズの棺であった。ムガル皇帝であるシャー・ジャハーンの墓は、なぜかその脇に置かれていた。