世界の街角から
(インド編)

16
タージ・マハル見学については、チョーハンさんに無理をきいてもらった。日程では午後にアグラ城を見学することになっていたのだが、
「私たちはタージ・マハルを見るためインドにやってきたんです。どうか、限られた時間を目いっぱいに使わせてもらえませんか」
と言って、わがままなお願いを無理矢理聞いてもらった。
タージ・マハルでゆっくり時を過ごし、ホテルまで自分たちの足で帰ることにさせてもらったのだ。面倒な手続きはいらなかった。ただ、チョーハンさんが、
「会社の関係があるから一言だけ書いて」
と言うので、「ホテルまで歩いて帰る」と書き、署名をした。
旅行社のツアーで行くインドは、人数がふたりだけになることが多いようだ。今回の旅も、私たちふたりと、現地係員と、運転手と、常に四人で車で移動ということが多かった。だから、意外と融通がきく。もし今回のツアーに四人なり六人なり集まっていたら、タージマハルを二時間以上も見学するというわがままはかなえられなかっただろう。その後、二〇〇五年にイギリス、二〇〇八年にアメリカに行ったが、どちらも団体バス旅行だったので、個人的な都合で日程を変更してほしいなどとは間違っても口に出せなかった。
しかし、自分たちでホテルに帰ると言ってみたものの、門外に出たら、摩訶不思議なインドの狭い路地に足を踏み入れることに、想像以上の不安を感じた。
すぐサイクルリクシャーが寄ってきた。アグラのリクシャーワーラーはたちが悪くて現地の人達も閉口すると『地球の歩き方』に書いてあるので、相手にせず、地図を見ながらずんずん細い道を曲がりくねって行った。だんだん道がわからなくなり、仕方なくそのリクシャーワーラーにホテルの方向を尋ね、さらに踏み分けていった。ほぼ完全に方向を見失い、仕方ないリクシャーに乗るかと考え、いや待てよと思いかえして、方向をきくだけにした。ワーラーは指差して、「こっちだ」と言った。
私はすぐ、通りに店を構える薬屋にホテルまでの道をきいた。薬屋はインテリ、あてになるようだ。案の定、リクシャーワーラーが連れていこうとしたのと反対の方向を指差して、細かくホテルまでの道順を教えてくれた。乗らなくってよかった。状況を察したワーラーはすごすご立ち去った。
道がわかるととたんに余裕が出てきた。
薬屋の向かいの駄菓子屋でオレンジジュースを飲んだ。5ルピーだった。すると、子どもが走ってきて、店主になにか言って、4ルピー出した。店主はどっかり座ったまま手を伸ばし、左手の壁際のケースからピンクの袋に包まれたビスケットのようなものをひとつ出して、子どもに渡した。それを受け取るとその子は走り去った。
「子どもにとって4ルピーは大金だろうに」と思った私は、どうしてもあのピンクの袋に入っている菓子を食べてみたくなった。
「私たちはタージ・マハルを見るためインドにやってきたんです。どうか、限られた時間を目いっぱいに使わせてもらえませんか」
と言って、わがままなお願いを無理矢理聞いてもらった。
タージ・マハルでゆっくり時を過ごし、ホテルまで自分たちの足で帰ることにさせてもらったのだ。面倒な手続きはいらなかった。ただ、チョーハンさんが、
「会社の関係があるから一言だけ書いて」
と言うので、「ホテルまで歩いて帰る」と書き、署名をした。
旅行社のツアーで行くインドは、人数がふたりだけになることが多いようだ。今回の旅も、私たちふたりと、現地係員と、運転手と、常に四人で車で移動ということが多かった。だから、意外と融通がきく。もし今回のツアーに四人なり六人なり集まっていたら、タージマハルを二時間以上も見学するというわがままはかなえられなかっただろう。その後、二〇〇五年にイギリス、二〇〇八年にアメリカに行ったが、どちらも団体バス旅行だったので、個人的な都合で日程を変更してほしいなどとは間違っても口に出せなかった。
しかし、自分たちでホテルに帰ると言ってみたものの、門外に出たら、摩訶不思議なインドの狭い路地に足を踏み入れることに、想像以上の不安を感じた。
すぐサイクルリクシャーが寄ってきた。アグラのリクシャーワーラーはたちが悪くて現地の人達も閉口すると『地球の歩き方』に書いてあるので、相手にせず、地図を見ながらずんずん細い道を曲がりくねって行った。だんだん道がわからなくなり、仕方なくそのリクシャーワーラーにホテルの方向を尋ね、さらに踏み分けていった。ほぼ完全に方向を見失い、仕方ないリクシャーに乗るかと考え、いや待てよと思いかえして、方向をきくだけにした。ワーラーは指差して、「こっちだ」と言った。
私はすぐ、通りに店を構える薬屋にホテルまでの道をきいた。薬屋はインテリ、あてになるようだ。案の定、リクシャーワーラーが連れていこうとしたのと反対の方向を指差して、細かくホテルまでの道順を教えてくれた。乗らなくってよかった。状況を察したワーラーはすごすご立ち去った。
道がわかるととたんに余裕が出てきた。
薬屋の向かいの駄菓子屋でオレンジジュースを飲んだ。5ルピーだった。すると、子どもが走ってきて、店主になにか言って、4ルピー出した。店主はどっかり座ったまま手を伸ばし、左手の壁際のケースからピンクの袋に包まれたビスケットのようなものをひとつ出して、子どもに渡した。それを受け取るとその子は走り去った。
「子どもにとって4ルピーは大金だろうに」と思った私は、どうしてもあのピンクの袋に入っている菓子を食べてみたくなった。