世界の街角から
(イギリス編)

イギリス旅行
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マンチェスターからボウネスへ

 オランダのヒースロー空港を離陸し、イギリスのマンチェスター空港に着いたのは夜だった。マンチェスター市内のホテル「ジャービス・ピカデリー」は伝統が感じられたが、日本のホテルのような快適さを求めることはできなかった。エレベーターは通路の床面とずれていて怖かった。部屋のコンセントやトイレやシャワーなどがとても使いにくかった。

 第2日目 2005年8月9日(火)
 イギリスの食事はあまりおいしくないと聞いていたので期待はしていなかったが、それは本当だった。朝食はビュッフェ・スタイルで、パン、豆、ソーセージ、マッシュルーム、トマト、目玉焼き、ベーコンといったものが並んでいた。イギリスの食卓には、何種類かの食材を調味料などで煮たり焼いたりする料理(我々が普通料理というとイメージするもの)はあまり並ばない。どれも単品のものを茹でるか焼くかして、味付けはあまり行わず、食べるときになって塩などを付ける。よく言えばシンプルで機能的なのだが、やはり味気ない。しかしこれには、食事に余計な時間を使うぐらいだったら他のことに時間を使った方がいいという、イギリス人の考え方が関わっているようである。この辺は、美食を追求する国、たとえばフランスやイタリアなどとはまったく違うところである。だからもし、海外旅行にグルメの要素を求めたいのであれば、イギリスは選ばない方がいいと思う。食事にはあまりこだわらないのであれば、イギリス旅行は最高のものになろう。食事の難点を補ってあまりある、魅力的な要素がイギリスにはたくさんある。(補足だが、2013年現在は事情が違うようで、イギリスが美食を追求し始めたという新聞記事を読んだ。)
 バスはウィンダミア湖まで北上する。イギリスには高い山がなく、見晴らしのよい丘陵地帯の草原と街並みの中の細い道を、150㌔ひたすら縫っていく。車窓を眺めるのが楽しくて、飽きることがない。黒い顔の羊が寝そべる草原や花々を飾った家々が美しい。ガーデニングが盛んな国だとは聞いていたが、どこの家も芝生と花壇がきれいに造ってある。夏になってもそれほど暑くならないから日本のように草取りに追いまくられないのだろうが、それにしても国民挙げて景観をきれいに保っているのではないかと思われるほどで、これはいくら日本が海外の観光客を増やそうと思っても、何か根底的なところで大きな考え方の違いがあり、世界遺産とかテーマパークとかの前に、自分の住んでいる家や町に誇りを持ってきれいにするところから始めないと、まったくイギリスのような国には及ばないと思った。
 ボウネスに到着。ここからアンブルサイドまで船でクルーズということになっている。いわゆる湖水地方の観光の開始だ。食事よりも、きれいな自然や街並みを保つことに精力をそそぐ。これが、イギリス人から私への無言の教えなのかもしれない。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(イギリス編)
◆ 執筆年 2014年4月26日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2012年2月から2014年3月まで連載した紀行文