世界の街角から
(イギリス編)

イギリス旅行
prev

6

コッツウォルズ

 第4日目 2005年8月11日(木)
 そう言えば、この旅行中は郵政民営化法案が8月8日に参議院で否決され、即日小泉内閣は解散し、衆議院選はいったいどうなるのかといった話題で持ちきりであった。この日8月11日には「それでも民営化は必要だ」という主張を「それでも地球は動く」というガリレオのエピソードになぞらえて、小泉首相が「郵政・ガリレオ解散」と命名したとイギリスでも報道された。ツアーの中には親子連れもあって、少し親しくなった賢そうな中学生の男の子が「自民党は絶対負ける」と私に言った。そのくらい崖っぷちに立っていた小泉首相であったが、日本に帰り、9月11日の投票日になると、結果は歴史的大勝であった。世論調査で「勝ち過ぎ」と言われた。このときポスト小泉に選ばれた安倍さんは今や第2次安倍内閣でアベノミクス旋風を巻き起こしている。神風かもしれないし暴風雨かもしれないし夏風邪かもしれない。小選挙区制になってからは何かはずみがつくと得票割合を超えて一挙に議席が膨れあがることがあり、それに影響されて政治社会の動きも何だか妙にめまぐるしくなってきた。8年後の今から振り返るとそんなことがしみじみと思われる。
 さて、コッツウォルズはそんな浮き世の騒がしさとはうって変わって、まるで時が止まっているみたいに落ち着いた佇まいで私たちを迎え入れてくれた。ゆったり水が流れる川岸にハニーストーンの家がずっと並んでいる。川辺の木陰に置かれたベンチでくつろぐ人々、優雅なカーブで造形された小さな石の橋、手入れの行き届いた芝生、蜂蜜色の壁面に掛けられた色とりどりの花、壁面から屋根の上まで蔦を這わせたいくつかの家。羊や馬が越えないように最上段に縦に石を並べた石組みの柵。
 古いイングランドの面影が残るこの町はかつて羊毛の交易で栄えていた。コッツウォルズは「羊の丘」という意味だ。景観が美しいので今は観光業が盛んで、多くの観光客が訪れる。一番魅力的なのは何と言っても蜂蜜色の石灰岩で造られた建物群である。ところでコッツウォルズと一口に言っても多くの町や村がある。私たちが行ったのはその中でも最も美しい家並みと言われる「バートン・オン・ザ・ウォーター」という名の村だった。他の町や村もそれぞれに魅力があるらしい。意外なことに、中には団体ツアーの立ち入りは許可していない町もあると聞いた。経済ではなく環境を優先したいというのがその理由だそうだ。はて、相当な経済的な利益が見込めるにもかかわらず、環境を優先して訪問客を制限するという町が、我が国にはあったっけ?
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(イギリス編)
◆ 執筆年 2014年4月26日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2012年2月から2014年3月まで連載した紀行文