世界の街角から
(イギリス編)

イギリス旅行
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グロスター、オックスフォード、ロンドン

 第5日目 2005年8月12日(金)
 グロスター大聖堂は、ハリーポッターのロケ地としても有名である。無数のアーチを連続させた、トンネルみたいな構造の廊下を見たら、誰もがハリーポッターの『賢者の石』を思い出し、写真を撮りたくなるに違いない。現にツアーのみんながそこで、ホグワーツ魔法学校の生徒たちになりきって写真を撮っていた。そう、ここは魔法学校の廊下として使われたのだ。天井と壁の網目模様を見ていると、動物の内臓を内部から眺めているような気分になってくる。
 この大聖堂は入場料を取らない代わりに、寄附を求めている。見ているとみんな寄附していた。もちろん私も寄附した。入り口の聖者の彫像、大広間にあるたくさんの大きなステンドグラス、パイプオルガン。ロマネスク様式とゴシック様式が混合した、優美で荘厳な建築様式。なんだか心が洗われるようである。
 中庭に出た。魔法学校の廊下を外から見るとローマ水道のようだった。南禅寺の水道橋と言ってもいい。
 外観で最も印象的なのは、高さ約70メートルの直方体のビルみたいな塔で、なんとなくサントリーの角瓶に似ている。それもプレミアム角瓶に。しかし、こんなことを思うのは大聖堂に対して極めて不謹慎である。
 オックスフォードに移動し、パブでフィッシュアンドチップスを食べた。イギリスに来て、食事がおいしいと思うことはあまりなかったが、やはりフィッシュアンドチップスはおいしい。すっかり満喫して、オックスフォードの街を歩く。街並みが美しい。石造りの建物。シックな色のバス。家の並びが平面的に見えるから、映画のセットみたいだ。なぜこんなにすっきりきれいなのだろうかとよくよく考えてみると、電線が一本もなかった。そう言えば、今まで見た街や村にも電線がなかった。日本にいると電線はあまり気にならないし、これももはや日本の風景の一部なのかもしれないという気にもさせられるが、やはりこの景観を見てしまうと、電線は景観を台無しにするとしか言いようがない。
 オックスフォード大学も美しい建物だった。とにかくシンプルなのだ。同じ色調の同じデザインの建物がずっと向こうまで続き、中庭は手入れの行き届いた芝生に覆われている。
 大学内の食堂に入る。中に入るなり、「わあー」という歓声が上がった。ハリーポッターの食堂だった。実は私はハリーポッターに格別の興味を持っていないのであるが、この光景には私の心も思わず躍動してしまった。細長い広々とした食堂に、テーブルがかなたまで続く。落ち着いた色合いのイスが整然と並び、テーブルに食器がきちんと並べられている。丸い皿に伏せたカップがエレガントだった。一定の間隔でライトが置かれ、薄暗いホールは何とも言えない雰囲気を醸し出していた。
 オックスフォード大学付近の学生街で、本屋や雑貨屋に入り、土産物を漁る。そして、今回のツアーの最終地点であるロンドンにバスは向かった。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(イギリス編)
◆ 執筆年 2014年4月26日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2012年2月から2014年3月まで連載した紀行文