世界の街角から
(フランス編)

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シャルトル③
「ノートルダム」は「私たちの貴婦人」という意味だが、これはだれのことかというところで先週は終わった。さてその答えは、もうおわかりの方も多いと思うが、聖母マリアのことである。つまり、聖母マリアに捧げられた寺院は、みんな「ノートルダム」なのだ。パリのは、あくまでも数あるノートルダム寺院の一つにすぎない。それなのになぜノートルダムといえばパリ、となってしまったのか。ヴィクトル・ユゴーのせいだそうだ。ヴィクトル・ユゴーの小説に『ノートルダム・ド・パリ』がある。エスメラルダという絶世の美女が登場する。「そんな作品知らないよ」という方も、『ノートルダムのせむし男』なら、「ああ、あれか」となるのではないか。ディズニー映画では『ノートルダムの鐘』と呼ばれる。これが、バレエやミュージカル、映画、ディズニーに乗って広まり、ついにノートルダムといえばパリ、となったらしい。パリのノートルダムは、セーヌ川沿いにそびえ立っている。左右に同じ形の白亜の長方形の塔を乗せている。真四角な本体も白亜である。このパリのノートルダムのイメージが、シャルトルの大聖堂の外観を思い描くのに使えるのである。パリのノートルダムをイメージできる方は、左右に乗っかっている長方形の塔をどっかへやってしまってほしい。そしてあいたところへ二つの円錐形(本当は多角錐だがこの際細かいことは気にしない)の塔を乗せてみてほしい。そのとき注意してほしいのは円錐形の形である。右側のはアイスクリームのコーン、左側のは細長くしたさざえがいい。つるっとしたアイスのコーンは、ロマネスク様式、こちらの方が古い。ごつごつしたさざえは、ゴシック様式、実はこちらも初めはアイスのコーンだったのだが、火事で焼失したため、さざえに建て替えられたらしい。したがってこちらは新しい。新しいといっても、13世紀のさざえだが。
この二つの塔は高さも違う。ロマネスク様式の方が9メートル高い。そう日本人ガイドのサユリさんにいわれて驚いた。なにしろ下からだと30センチぐらいの差にしか見えない。
早く寺院の中に入りたいが、サユリさんが入口の彫刻について一生懸命解説している。形の違う塔を左右に乗せた巨大な入口ではまどろっこしいので、正式な呼称を使おう。西側ファサード、通称「王の扉口」という。アーチ状の入口に無数の細長い人物が彫刻されている。人物の体に厚みがなく表情が乏しいのが特徴だ。ロマネスク彫刻の傑作といわれる。人物はユダヤの王や旧約聖書の預言者たちだ。南側にもファサードがあり、そちらの彫刻はゴシック様式である。体に厚みがあり表情も人間らしくなっているという。「最後にそれを見るので『王の扉口』と比べてみてください」とサユリさんがいい、やっと聖堂内部に案内してくれる。「まずはステンドグラスを見ましょう」という声を残して彼女の姿は堂内に消えた。