世界の街角から
(フランス編)

フランス旅行
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シャルトル④

 現地日本人ガイドのサユリさんがステンドグラスの説明を詳しくしてくれた。この説明はじつにありがたかった。ただステンドグラスを見るだけでは、「ああ、きれいだな」で終わってしまっただろう。由来などがわかると、見方も変わる。私は、絵の展覧会に行ったり、お寺の仏像を見たりするときは、音声ガイドなどをなるべく聞くようにしている。私には絵や仏像が美しいかどうかはよくわからない。いい絵だなと思ったら、たいした絵ではなかったり、駄作ではと思ったら、巨匠の名作だったり、ということはざらである。自分の判断がそれほど当てにならないのならば、500円払ってでも音声ガイドを聞いたほうが、見学に必要な時間を無駄にしないような気がするのだが、どうだろうか。
 それはさておき、ステンドグラスにはやはり見方があるということがわかった。
 シャルトルの大聖堂では、聖書の物語を描いたステンドグラスが多い。文字の読めない民衆に教義を広めるため、カラフルでわかりやすい絵が描かれたということだ。本を読むことができない人のための、漫画やテレビ、映画のような役目を果たしていたようだ。
 それでどんなふうに見ればいいかということだが、正方形の画面が縦に九つ、横に三つ並んでいるステンドグラスがあったので、これを例にして説明してみよう。ところで、画面が三かける九で二十七あったら、あなたはどういう順番に見ていくだろうか。おそらく多くの人は漫画のようにコマを追っていくのではないか。つまり、右から左、上から下、という流れである。ところが、ステンドグラスのコマを追っていく順番は、これとはまったく逆なのである。つまり、一番下の一番左のコマからはじめ、左から右、下から上、という流れなのである。この順番でコマを追っていくと、受胎告知の話やイエス降誕の話、マグダラのマリヤの話などがひととおりわかる仕組みになっている。当時の人々は、神父さんの説明を聞きながら、こういったエピソードを一つ一つ覚えていったのだろう。
 ステンドグラスは、マグダラのマリアなどの聖書の物語が逆漫画方式で描かれた部分と、その外側のステンドグラスの縁取りの部分に分かれるのだが、縁取りの部分にもやはり絵が描かれている。これも聖書に関連した絵なのだろうかと思っていると、どうもそうではないらしい。
「さて、ここにはどんな絵が描かれているでしょうか?」と日本人ガイドのサユリさんがツアーの一行に質問した。私は脳みそをフル回転させたが、さっぱりわからなかった。あるステンドグラスには、水がめから水を流している男の絵があった。またあるステンドグラスには、動物から皮をはいでいる男の絵があった。いったいこれらは何を描いているのだろうか?
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(フランス編)
◆ 執筆年 2017年12月17日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2014年10月から2017年7月まで連載した紀行文