世界の街角から
(フランス編)

フランス旅行
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シャルトル⑤

 前回は「ステンドグラスの縁取り部分には、どんな絵が描かれているでしょう?」と日本人ガイドのサユリさんがツアーの一行に質問したところで終わった。水がめから水を流している男の絵や動物から皮をはいでいる男の絵である。実はこれらは聖書とはまったく関係ない。スポンサーの宣伝である。ステンドグラスの制作に当たっては、商人がスポンサーになることもあった。大勢の人々が見にくるので、商人にとってはいい宣伝になっただろう。水がめは水道屋のCM、皮をはぎとられている動物は靴職人のCM、そんな具合である。中世から続く由緒正しい大聖堂ときけば、何もかも神聖なものと思ってしまいがちだが、このようにしっかり世俗的なものとの折り合いがとられているのであった。
 世俗的なものとの折り合いということでは、ほかにも面白い話がある。
 そもそもこの聖堂は、聖母マリアのチュニックを所蔵しているため、それをいちどは目にしたいと、人々が大勢訪れるようになり、これほどまでに著名な建築物になったという歴史がある。かつて聖母マリアの縁日には大変な活況を呈し、そのうち聖堂内でも物品が販売されるようになった。野菜、肉、織物などいろいろ売られた。なんとワインを売る者まで出てきた。そうこうするうちに、大聖堂が街の経済の中心になっていく。巨大な建物、高い塔、にぎやかな市場。大聖堂は、当時の人々にとって、デパートやショッピングモールのような存在だったのかもしれない。もちろん今は聖堂内で物品を売ることはできない。おごそかな堂内を歩きまわるのは観光客や巡礼者だけである。
 巡礼者たちが一生に一度は見たいと思う聖母マリアのチュニックを、私もしっかりこの目で見てきた。巡礼者ならば感激で胸が一杯になるのだろうが、残念ながら私には豚に真珠だった。
 シャルトルの大聖堂、締めくくりの話は、シャルトルブルーについてである。聖堂内にあるステンドグラスは特徴的な青い色で、これがシャルトルブルーと呼ばれ、大変美しい。聖母マリアのチュニックとシャルトルブルー。フランス旅行を予定している人は、これらを見るためにシャルトルに足を延ばしてはいかがだろうか。
 南側ファサードから外に出た。西側ファサードのロマネスク様式に比べると、体に厚みがあり表情も人間らしいという、ゴシック様式の彫刻があった。それを見学すると、シャルトルの大聖堂ともお別れである。サユリさんともお別れである。このあとは、ロワール地方までバスで移動し、シュノンソー城とシャンボール城の見学をするという行程が待っている。
 サユリさんは別れに臨み、またクイズを出した。クイズが好きな人だ。
「みなさんが見学してきたシャルトルの大聖堂は、上から見るとあるものに見えます。さて、何に見えるでしょうか?」
 またもや私は必死に考えた。しかし、答えは出てこない。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(フランス編)
◆ 執筆年 2017年12月17日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2014年10月から2017年7月まで連載した紀行文