世界の街角から
(フランス編)
9
ロワール地方③
シャンボール城はもうすぐそこなのだが、芳野さんの話がおもしろいので、「図書館だより」紙上ではなかなかたどり着かない。味蕾の数が味覚にどう影響するかという芳野さんの話の続きである。欧米人の味覚はおおざっぱである。だしの微妙な味が見分けられない。知り合いでカナダに留学した人がいて、ホームステイ先の家の母親とみそ汁をつくり、みんなで飲み比べをしたという。彼女はちゃんとだしを取った。その家の母親はだしは取らなかった。どちらがつくったか見分けがつかないように並べた。日本人は飲めばすぐにだしを取ったものかどうかわかった。しかし、カナダ人はどちらも同じみそ汁に感じた。
以上が芳野さんの話の要約である。なるほど日本人は繊細な味覚の持ち主なのであろう。よく、フランス料理は日本人のつくったものがおいしい、中華料理も日本人のつくったものがおいしいということを聞くが、芳野さんも同じことを言っていた。今回のフランス旅行では、各地でいろいろな料理やスイーツを食べたが、たしかに日本で同じものを食べる方がうまいかもしれないと思ったのは事実である。ロワール巡りの数日後、「アンジェリーナ」というパリのモンブラン発祥の店でモンブランを食べたのだが、私が時々行く伊勢崎のMという店のモンブランの方がうまいかなと実は思った。
さて、それはともかく、ロワール地方のシャンボール城に話を戻そう。
ハプスブルク家のカール5世と神聖ローマ帝国皇帝選挙を争ったヴァロワ朝第9代フランス王フランソワ1世により、狩猟のための一時的な居所として建設されたのが、シャンボール城である。シャンボール城は、ロワール渓谷最大の城で、建築様式に特徴があり、装飾が美麗であるが、城本来の目的である防御性はあまり備えていなかった。権力を誇示することが最大の目的であったのだ。彼は宿敵カール5世をシャンボール城に招き、自らの権力の強大さを存分に見せつけた。そういう意味では、家康が建てた二条城にも似ていよう。
駐車場に着くと、周りはキャンピングカーだらけである。フランス人のサマーバケーションは長い。多くの人たちが家族でキャンピングカーに乗って、観光地に出かける。シャンボール城は人気スポットなのだ。うらやましいと思う。フランス人ほどではなくてもいい。せめて一ヶ月間、キャンピングカーに乗ってバカンスを過ごすことが、日本人にもできないだろうか。それとも、一週間以上学校や仕事に行かなかったら落ちつかなくなる遺伝子が、日本人には組み込まれているのだろうか。
駐車場から城のよく見える場所に行くまで、けっこう歩く。そのあいだ、カフェやテラス、土産物屋がたくさん並んでいる。バーベキューを食べたりビールを飲んだりするフランス人でごった返している。
川を挟んでシャンボール城が見えるところに案内される。ここは絶好の撮影スポットだ。