世界の街角から
(フランス編)

16
モン・サン・ミッシェル⑤
すし詰め状態の入場口をなんとか無事に突破すると、瀟洒な修道院が視界に入ってきた。尖塔のミカエル像を見上げてみたが、あまりにも高いところにあって、よくわからなかった。
見渡すと、海が干上がり、ところどころ川や沼のようになっている。歩いて渡ったら、足が泥だらけになりそうだ。
城塞としての役目を果たした時期もあったためか、この修道院は堅牢な石造りである。その内部に入ると、やはり広い。高い柱がずっと向こうまで続き、見上げると見事なステンドグラスがある。物品を上げ下げするための、巨大な車輪があった。ロープウェイみたいに、車輪の軸に縄が巻いてあり、この縄がはるか下方へ垂れ下がっている。窓から下を見ると、芝生で人々が寝ころんでいるのが、ジオラマのように見える。食堂や修道僧たちの仕事部屋も見学し、外に出る。
ツアーの一行が集合し、芳野さんから説明を受けて、にぎやかな商店街へ繰り出した。
浅草の仲店みたいに混みあっていた。プラールおばさんは、オムレツだけでなく、クッキーもおいしいと評判だったというので、どうしてもお土産に買いたかった。至る所に売っているし、芳野さんの話だと、モン・サン・ミッシェルで買わなくても、パリなどのスーパーでも買えるということだ。しかし、せっかくモン・サン・ミッシェルにいるのだから、ここで買いたいような気がして、ある店に入った。そこの店員は、とてもよく心得ていた。フランス語の本で覚えたフレーズも、片言の英語も使う必要はなかった。彼女の方から日本語で話しかけてきた。添乗員の名前を言え、というから、JTBの芳野さんだと言った。しかし、店員は芳野さんを知らなかった。会計をすますと、今度はうしろに並んでいた人が添乗員の名前を聞かれた。その人は値引きしてもらった。
もはや疲労の限界を感じた私は、カフェに吸いこまれた。年配の男性店員が出てきた。私がフランス語の単語を口から出そうとして難渋していると、彼の方から日本語で話しかけてきた。したがって、私は、ほどなくテーブルに座り、注文していた。数分後、私が頼んだコーラなどがきた。私は、コーラを飲みながら、向かい側の店の看板や大きな置物などを眺めていた。
喉を潤した私はカフェから出た。雑踏の中を歩きまわったあと、待ち合わせ場所となっている、モン・サン・ミッシェルの出入り口付近にやってくると、ふくらはぎまで真っ黒にした子供たちが歩いていた。敷石にくっきりと足跡を残して、堂々と歩いている。子供だけでなく大人もいた。どうやら歩いてモン・サン・ミッシェルまで渡ってきたらしい。ツアーの一行が集まるまでしばらくそこにいると、裸足の人々が断続的に入ってきた。彼らはそのまま商店街を上にあがっていく。そんな光景を見ていると、いつの間にか全員集合していた。