世界の街角から
(フランス編)

フランス旅行
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モン・サン・ミッシェル⑥

 我々ツアー一行の宿泊するホテル「ベール」にもどり、全員で日程の確認をする。満潮を迎えたモン・サン・ミッシェルが一番よく見えるところまで案内するということで、芳野さんが希望者を募ったが、私たち夫婦は疲れていたので、申し込まなかった。この文章を書いている今になってみると、なぜこの夜景を見ておかなかったのかと非常に悔やまれる。花より団子で、私たちはこのとき、遠くの花より、近くの団子に心ひかれていた。隣のスーパーマーケットで買い物して、部屋でシードルを飲もうと思ったのだ。
 なぜシードルかというと、モン・サン・ミッシェルがあるノルマンディー地方は、有数のリンゴの産地なのだ。シードルとは、リンゴを発酵させて作る発泡酒である。わかりやすく言えば、リンゴで作ったビールみたいなものだ。このシードルについては割合日本でも知られていると思うが、シードルを蒸留して作ったカルヴァドスというのは、案外ご存知の方が少ないのではないだろうか。リンゴで作ったブランデーみたいなものだ。私はシードルよりもカルヴァドスの方がよかった。常日頃ビールより日本酒やバーボンを好むせいかもしれない。ビール党ならばシードルに軍配を上げるだろうか。試してみてはいかがだろうか。
 スーパーマーケットの酒類コーナーには、カルヴァドスがズラーッと並んでいた。シードルと小さいカルヴァドスを手にして、あとは、チーズやアーモンド、スナックなどを買いこむ。部屋でアーモンドをつまみながら飲むと、これがうまかった。
 ノルマンディー地方は、チーズも有名である。フランスには百以上チーズの種類がある。そのうち四分の一はノルマンディー地方のチーズである。日本人にも人気のあるカマンベールチーズもノルマンディー地方のチーズである。ノルマンディー地方にカマンベール村というのがあり、そこで作られたチーズだけがカマンベールチーズと名乗れる。同じように作っても、この村以外の場所では名乗ることができず、カマンベールチーズ風と言うしかない。
 カマンベールチーズは意外なことだが、フランス革命と関係がある。ご存知の通り、フランス革命では、大勢の貴族が処刑された。パリとその近郊の貴族たちは、捕まらないうちに地方に逃げていった。貴族の邸宅だけでなく、修道院も襲われた。寄進によってぜいたくに暮らしていた修道院もあったからだ。ある修道僧たちは、カマンベール村に逃げこんだ。かくまってくれたお礼に、修道僧たちはチーズの製法を教えた。これがカマンベールチーズの起源だと、これはもちろん、例によって芳野さんの受け売りである。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(フランス編)
◆ 執筆年 2017年12月17日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2014年10月から2017年7月まで連載した紀行文