世界の街角から
(フランス編)

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ルーアン③
歴史の表舞台に突如として登場し、華々しく活躍し、そして無念な最期を迎えた有名人というと、みなさんはだれを頭に思い浮かべるだろうか。日本なら、源義経、織田信長、坂本龍馬、などなど……。海外なら、マリー・アントワネット、ナポレオン、ジョン・F・ケネディ、などなど……。そして、これから私が訪れるルーアンにちなんだ有名人、ジャンヌ・ダルク。ちなみに、マリー・アントワネットについては、パリ近郊ヴェルサイユ宮殿を訪れる際に、詳しくお話する予定だ。ああ、それにしても、パリにだいぶ近づいてきたなあ……。さて、ジャンヌ・ダルクである。ジャンヌ・ダルクが何をしたかを語るためには、どうしても百年戦争に触れないわけにはいかない。しかし、百年戦争を簡単に説明するのは難しい。難しいのを承知で乱暴に概説すると、こんな感じになる。
十二世紀後半ごろのフランスのだいたい半分はイギリスの領地であった。ところが、十三世紀前半になると、イギリスのジョンという王様がその大部分を喪失してしまった。乱暴に言うと、四国か九州ぐらいの広さにまで減らしてしまった。ジョン王は父から領地をもらえなかったので、欠地王という呼び名を人々から付けてもらっていたが、フランスの領地を喪失したので、失地王という呼び名まで、つけ加えてもらうことになったのである。
この状況に置けるイギリス側とフランス側の心情は想像にかたくない。つまり、イギリスにしてみれば、自分たちのものであったはずのフランスの西半分をもう一度取りかえしたいというものであり、フランスにしてみれば、これを機にフランスから完全にイギリスを追い出したい、というものである。従って、百年間に行われた数々の戦闘の成りゆきは、フランスの中のイギリスの色で塗られた部分を、めまぐるしく増やしたり減らしたりした。
それで、我がジャンヌ・ダルクがいつ登場するかというと、それが百年のいちばん最後であった。それにしてもなぜ、無名の田舎の農民の娘が百年戦争に関わることになったか、不思議に思われる方も多いであろう。実は、ジャンヌは神のお告げを聞いたのである。神はジャンヌに何と言ったか。二つあった。一つは、フランスからイギリス人を追い出せということ。もう一つは、王位継承問題で難癖を付けられて困っていた、のちのシャルル七世を、王位に就かせよということ。こんなこと十三歳の少女に実現できるわけがないが、神のお告げを聞いた彼女は実現させてしまった。まず、彼女がしたことは、シャルル七世(まだシャルル七世になっていなかったが)のところへ行って、神様がこう言っていましたと話すことだった。初めは全然信じてもらえなかったが、ジャンヌがあまりにも熱心なので、だんだんシャルルもその気になっていった。そしてついに、ジャンヌを大将にして、オルレアンの戦いに向かわせた。