世界の街角から
(フランス編)

フランス旅行
prev

27

パリ⑤

 非常に喉が渇いた私は、巨大なフードコートにあるマクドナルドでコーラを買い、テーブルで飲んだ。そして、ルーブル美術館に勝手なイメージを持っていたことにふと気がついた。それは「フランスの有名な画家の絵がたくさん見られる美術館」というイメージである。ところが、実際に見学してみると、あまりに絵が少なかった。あるのは出土品とか工芸品ばかりだ。調べてみてわかったのは、40万点に迫る大量の収蔵品のなかで、絵画は8千点にも届かないということだ。しかもフランス人画家のは1848年以前の絵しかない。つまり、マネ、ミレー、ドガ、セザンヌ、モネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホ(オランダ人だが、作品の多くがフランスで描かれた)など、せっかくパリに来たのだからこの人の絵だけは見て帰りたいと思うようなものは、残念ながらルーブルでは見られない。いや、本当はこれら1848年以降の絵も昔はルーブルにあったのだが、1986年にオルセー美術館が開館するやいなや1848年以降の絵はそちらに移ってしまったのである。だから、たとえば、アングルの『泉』、マネの『オランピア』、『笛を吹く少年』、ミレーの『落穂拾い』、『晩鐘』、ゴーギャンの『タヒチの女』などは、オルセー美術館に行かないと見ることができない。ただし、1848年以前のものが多いアングルに関しては、『グランド・オダリスク』など多数の作品をルーブルで見ることができる。
 JTBの添乗員の芳野さんが何か言っている。
 「明日、オルセー美術館かオランジュリー美術館に行かれる方は、ルーブル美術館の中で買えますので、私についてきてください」
 オルセーもオランジュリーもチケットを買うのに時間がかかるので、ここで買っておいた方がいいと言うのだ。オルセーにもぜひ行きたかったが、モネの『睡蓮』を見る決意を固めていた私は、オランジュリーのチケットを買うためについていった。しかし、売り場はすでに長蛇の列になっていた。仕方なくチケットを買うのはあきらめて、芳野さんと一緒にすごすごと待ち合わせ場所に引き返すと、もう出発の時刻になっていた。
 ルーブル美術館とはどのような美術館かという話をもう少しする。乱暴に言うと、美術館というよりは博物館である。ロンドンにある大英博物館みたいなところだと言えばわかりやすいであろうか。私は以前「閑話 世界の街角から」(本欄)にイギリス編を書いたことがある。大英博物館の常設展示品は15万点あるから、一秒で5~6点の展示品を見れば、一日で制覇できる。2013年1月号にそう書いた。それをルーブル美術館でやるとどうなるか。ルーブルの収蔵品38万点の中で展示されているのは3万5千点である。ということは、一秒で1~2点の展示品を見れば、一日で制覇できる。おっ、ルーブルなら一日で見切るかな(無理、無理)。
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(フランス編)
◆ 執筆年 2017年12月17日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2014年10月から2017年7月まで連載した紀行文