世界の街角から
(アメリカ編)

アメリカ旅行
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アンテロープ①

 ザイオンからレイクパウエルまでの山道でガイドが人造湖の説明を始めた。レイクパウエルはアリゾナ州とユタ州をまたがる大きな人造湖です。コロラド川を堰き止めてできました。人造湖としてはアメリカで第2位の大きさです。カリフォルニア州やネバダ州にも水は供給されています。その西端のページという町はレイクパウエルとともに誕生しました。レイクパウエル観光の拠点です。
 太陽はザイオンでは真上だったがページでは傾いていた。視界の彼方に青く美しい湖が広がり、バカンスを楽しむ白い船が五六十入り乱れている。
 避暑地で見かけるような、ロッジだかバンガローだかコテージだか、名称はよくわからないが、そんな雰囲気の平屋のホテルで、客室のドアはすべて屋外に面していた。ドアを開けると、地面と同じ高さに床があった。中に入るとベッドとアームチェアとテレビがあった。夕食はビーフとチキンとパスタの中から一つ選ぶ。どれもサイズが大きかった。食後に湖の近くを散策する。星がきれいだった。ウサギがたくさん走り回っていた。
 自動販売機コーナーに行く。古いのが一台置いてあって、飲み物は三種類くらいだった。日本人にはとても満足できないような自動販売機だ。日本の自動販売機コーナーなら少なくとも三台は置いてあって、飲み物は少なくとも三十種類はあるだろう。しかも、次から次へと新製品が登場する。地域限定、季節限定も楽しめる。アメリカ人はそんなもの興味ないのか。それとも、広い地域に流通システムを行き渡らせるためには、このぐらいが限度なのか。

 第3日目 2008年8月12日(火)
 朝食を済ませると、すぐにバスでアンテロープへ向かった。見学場所の直前でトイレ休憩をした。現地にはトイレがないのでここで済ませてください。時間がないのですぐ済ませてください。早くしてください。あとの計画が狂ってしまいます。添乗員はいらいらしながらそう繰り返した。トイレの前は長蛇の列になっていて、そんな言葉にはだれも耳を貸さない。何しろひどいトイレ事情なのである。小さな土産物屋に一つしかない個室がJTBツアー一行のトイレ休憩場所だというのだ。信じられない! ほんとうにここしかなかったのだろうか。しかも、男も女もみな一列になって、この個室が空くのをひたすら待っているのである。待つ者も待たす者もつらい。しかし、アンテロープ見学後のバス移動後の休憩までは間に合いそうもない。必死で待つしかないのだ。並びたくて並んでいる者など一人もいない。とりわけここはひどかったが、海外のトイレは概して不便である。
 アンテロープでは白いピックアップトラックが待っていた。広い荷台に屋根と柵がある。荷台は見学者が背中合わせに座れるようになっている。一台のピックアップトラックに12人ほど詰めこまれ、柵につかまって砂漠の中を移動するのだ。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(アメリカ編)
◆ 執筆年 2020年1月10日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2017年9月から2020年1月まで連載した紀行文である。
 ただし2019年10月から2020年1月までは諸事情により図書館のコーナー掲示となった。