世界の街角から
(アメリカ編)

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アンテロープ②
砂漠を疾走するピックアップトラックの荷台は非常に揺れる。砂ぼこりがひどいので、ハンカチやタオルで口もとを覆っている人が多い。山賊の女頭領に見える人もいる。アッパー・アンテロープに着いた。ここは歩いて簡単に見学できる。ここを説明するのは困難である。一言で言うと、コロラド川の支流の一つが刻んだ渓谷である。渓谷といっても、外見は小ぶりな赤い岩山である。真ん中に割れ目があって、ここから中に入れる。中は周囲の岩壁が上までらせん状にねじれていて、その間を奥まで歩いて行けるようになっている。数分も歩くと行き止まりなので、また同じ道を戻って、入ってきた割れ目から外へ出る。何が面白くてそんな中へ入っていくのかというと、らせん状にねじれた赤い岩壁が描く模様がなかなかきれいなのだ。岩山の上の穴から太陽が差し込むと、この模様が、神秘的に輝く。これは肉眼で見ないと体験できない色である。もちろん写真に撮ったが、あの色は再現できなかった。この光景を見ようとして観光客は太陽が上の穴から差し込む時刻に来たがる。これを見せたいから、アメリカ人添乗員(ジョーイ)は、我々をあれほどせかしたのだなと納得する。
アッパー・アンテロープがあるから、当然ロウワー・アンテロープもあるのである。しかし、こちらはやや上級者コースなので、観光客で行く人は少ない。
渓谷といっても水など流れていなかった。砂漠の中にある岩山である。しかし、水は流れるのである。モンスーンの時期になると、予告なしに降る雨がアンテロープを水浸しにすることがあるらしい。あっという間の出来事である。実際に観光客が遭難したこともあるというので、アンテロープ観光には天候に注意する必要がある。しかし、アンテロープから外に出て、果てしない砂漠を見ていると、とてもここに水が流れてくるとは想像できないが。
今度はいよいよモニュメントバレーである。「いよいよ」という気持ちになっているのは、ここは西部劇のビデオで予習してきたからである。西部劇の画面によく出てくる風景と同じものがほんとうに見られるのだろうか。
西部劇というとジョン・フォードが監督として有名だが、そのジョン・フォードがロケ地としてモニュメントバレーの風景を愛したのである。ジョン・フォードがジョン・ウェインを初めて主役に起用したことでも有名な「駅馬車」もモニュメントバレーで撮影された。ジョン・フォードはこの場所を気に入り、「駅馬車」以降の西部劇はほとんどモニュメントバレーで撮っている。ジョン・フォードがよくカメラを設置した場所はジョン・フォードポイントと呼ばれている。こういうストーリーがあると、俄然私の見学欲が高まってくるのである。早くジョン・フォードポイントが見たい。