世界の街角から
(アメリカ編)

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モニュメントバレー②
モニュメントバレーは赤と青の世界である。赤は砂漠。青は空だ。空はくっきりしていて、雲はそれほどない。視界の及ぶ限りこういう世界だ。ここにきわめて特徴のある岩山が点在している。形は、台形の上に長方形が乗っかった感じだ。下の台形は色合いや肌触りがピラミッドに似ている。上の長方形は色合いや肌触りが瓦せんべいに似ている。もちろんピラミッドぐらい巨大な瓦せんべいである。そういう瓦せんべいが、上を平らにならしたピラミッドに乗っかったものと理解してもらえればいいだろう。ピラミッドもいろいろだ。横幅の狭いタイプ、普通のピラミッドタイプ、横幅のだだっ広いタイプ。非常にバラエティーに富んでいる。瓦せんべいもいろいろだ。バリンと折れて横幅の狭くなったもの、どこも欠けてない完璧な瓦せんべい、ところどころ欠けているもの、横幅のだだっ広いもの、いろいろある。
ピラミッドの上に瓦せんべいが乗っかっていると言われてもピンとこないだろうが、写真や映像で一度見れば、誰でも「ああこれか」と思うだろう。「西部劇で見かけたな」と思うかもしれない。
そう、日本と言えば富士山、フランスと言えばエッフェル塔、インドと言えばタージマハル、ギリシャと言えばパルテノン神殿、西部劇と言えばモニュメントバレーなのである。
到着した我々を何人かずつ乗せた白いバンは、たくさんの瓦せんべいを縫うようにして、駆け回った。
瓦せんべいを乗せたピラミッドの正式名称は、メサあるいはビュートである。どう違うのだろうか。長く連なったものがメサで、メサの浸食が進み、孤立するとビュートだ。私はその違いがわかる男では決してないから、従って、これらを判定する資格を持っている者ではないのだが、まあ、長いのがメサで、小さいのがビュートだと理解していただきたい。
そうこうするうちに、ジョン・フォードポイントに着いた。まあ、砂漠の中にある大きな岩だ。上が平らで、人が何人でも乗れる。気持ちだけ傾いている。ここでジョン・フォードがメガホンを握った。そう聞いた私は記念撮影をした。私だけでなく、来た人はみんな記念撮影を始めた。
ジョン・フォードポイントからは、ある特徴的なビュートを見ることができる。浸食が進みすぎたため、三本の棒のようになっている。フォークみたいだ。見ようによっては、三人の修道女が立っているようにも見える。それで、スリーシスターズ(三人の修道女)と呼ばれている。私は、このとき撮影した写真を見ながら、あることを思い出した。
数年前、私は、文芸部の生徒を連れて、桐生市のシルクホールに出かけることになった。テレビ番組で大評判の夏井いつきという俳句の大家が来るというのだ。私には、テレビを見る習慣というものがないので、不覚にもこの俳句の大家を知らず、生徒たちに意外な顔をされた。