世界の街角から
(アメリカ編)

アメリカ旅行
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ルート66①

 ジョーイがオプショナルツアーの紹介をした。これからバスはラスベガスに向かうが、希望があれば、別のプランがあるというのだ。セスナに乗ってグランドキャニオンを眺めるそうだ。私はそのプランに引かれたが、思いとどまった。ラスベガスでの計画がすでに立ててあったからだ。希望者はいませんかとジョーイがきくと、ある婦人が夫に訴えた。小柄で静かな人だった。その静かな年配の婦人が、あふれる思いを表出する様子が、とても印象に残った。彼女は、グランドキャニオンでの行程があまりにも物足りないと夫に訴えていた。我々はこの夫婦を残して、バスに乗った。
 私はバスの中で考えた。私にとってグランドキャニオンは決して物足りないものではなかった。しかし、考えてみれば、それは、私の中では、今回の旅行で、どちらかと言えばラスベガスが主であり、グランドキャニオンは添え物であったからだ。もし私がグランドキャニオンを主としていたら、状況は全然違ったであろう。このツアーでは、グランドキャニオンは主にマザーポイントから眺めるものであった。プラン次第では、ロバに乗って谷底まで往復することだってできるのである。現に、我々はバスに乗る前のほんのひとときのあいだだが、少し下の方まで歩いてきたのである。山道はロバの糞だらけで、陽ざしがきつかったから、私はこれで十分だと思ったが、グランドキャニオンを楽しみにしてきた人にとっては、いかにも物足りなかったであろう。くねくねと山道が続き、遥か遠くの谷底にコロラド川が流れていた。それを見た時、あんなに遠くまで歩かなくてよかったなあと思ったのは、もしかしたら私一人ぐらいであって、他の大半の人たちはもっと歩きたいと思ったのかもしれない。
 バスはアリゾナ州キングマンに到着した。ここでランチだ。ここには、かつてシカゴとカリフォルニアを結ぶ重要な国道だった、ルート66が保存されている。東と西を連絡し、グランドキャニオンやロサンゼルスへのバカンス客も通行した。マクドナルドやドライブスルーが生まれた道でもあった。現在は廃線になってしまったが、それでも、ミズーリ州やアリゾナ州では復活し、歴史的街道として保存されている。そのアリゾナ州のルート66の中心的な都市がキングマンである。沿道には、観光客向けのカラフルな店が建ち並んでいる。そこにバスは停まり、しばらく自由行動となった。原色の赤、青、黄で塗装されたニワトリの像が置かれた土産物屋の中に入った。店内に巨大な赤と白で塗装されたルート66の標識があり、隣に原寸大のエルヴィス・プレスリーが金色のワイシャツに金色のスーツを着て、金色の蝶ネクタイを締めている。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 世界の街角から(アメリカ編)
◆ 執筆年 2020年1月10日
◆ 群馬県立太田高等学校『図書館だより』の「閑話 世界の街角」に 2017年9月から2020年1月まで連載した紀行文である。
 ただし2019年10月から2020年1月までは諸事情により図書館のコーナー掲示となった。