世界の街角から
(アメリカ編)

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再びラスベガス①
ラスベガスに到着した。夜景がきれいだ。ホテル「トレジャー・アイランド」に〈海賊船上における美女と海賊の乱闘ショー〉を観に行く。もちろん正式名称ではない。正式名称は「ザ・サイレンス・オブ・ティー・アイ」である。内容は、海賊船上における美女と海賊のダンス・ショーである。乱闘はなかった。トレジャー・アイランドの2階に和食レストラン「ソーシャル・ハウス」があり、そこのテラスから観ることができるので、そこへ入り、枝豆と寿司をつまみながら、観た。
大きな船がある。真っ暗である。突然ピンクの光に照らされる。次は青い光だ。いろいろな光が入り乱れる。美女が10人ぐらい出てきた。ビキニ姿で踊り始めた。セイレーンを模しているのであろう。セイレーンはギリシャ神話に登場する魔物である。美しい歌声で船員を惑わし、食い殺したという。シレーヌとも言う。これは本当に恐ろしい魔物である。ドビュッシーに「夜想曲」という曲があるのだが、この第3曲が「シレーヌ(海の精)」という。私は、これを聴きながら車を運転していたことがある。聴いているうちに、大変な睡魔に襲われ、非常に怖い思いをしたことがある。それ以来、ドビュッシーの「夜想曲」は、車の中では聴かないことにしている。セイレーンは本当に危険である。
さて、「ザ・サイレンス・オブ・ティー・アイ」に話を戻そう。ビキニ姿の美女が踊っていると、突然、轟音とともに船が炎上した。ものすごい火炎である。船体の縄梯子を伝って海賊がぞくぞくと乗り込む。甲板に上がった、上半身裸の海賊たちは、美女たちと一緒に踊り出した。マストに通じるらせん階段を美女と一緒に昇る海賊。マストからロープを伝って甲板に滑り降りる海賊。非常に目まぐるしい。
ところで、「ソーシャル・ハウス」の寿司であるが、これは残念ながら、非常にまずかった。というよりは、日本人である私が思っている寿司とは、根本的に何かが違うようであった。見た目は江戸前寿司なのだが、食べてみると「生の魚を載せた酢飯」と言い表すしかないような代物なのである。まあ、でも、これは致し方あるまい。その後、フランスのパリで食べた寿司も、やはり、何か、それも、非常に大切な何かが、とても違う気がしたのであるから、これはもはや、決して埋めることのできない文化的な深い溝なのであろう。
「ザ・サイレンス・オブ・ティー・アイ」も見終わり、今度は、ベネチアンの中に入った。このホテルの中は、まるで別世界である。一階のフロア全体が、運河になっていて、そこを優雅にゴンドラが流れているのである。ゴンドラの中では、恋人の肩に金色の髪をもたせかける若い娘がいて、櫂を握る船頭がその後ろに立っている。