すいす物語

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  二〇二二年四月

 ミライが来てから、二回ディーラーに行った。
 一回目は、一ヶ月点検であった。
 かかりつけのディーラーではミライの点検はできないということで、初めていくディーラーだった。そこは水素ステーションの付近にあった。かかりつけのディーラーの担当の営業の方と待ち合わせて、点検を実施した。
 二回目は、国の補助金を銀行振り込みするための手続きだった。ミライは高額なので、購入するのはためらったが、補助金が一五〇万ほど出ることで、踏み切ることができた。
 補助金には条件が付いていた。災害時に国に貸し出すというのだ。
 ミライは発電機付き電気自動車である。水素を使って発電し、その電力でモーターを回す。わざわざ水素で発電しなくても、電気自動車ならEVがあるじゃないかと思わなくもないが、いちいち充電器につながなくても、水素を入れれば発電してくれるので、これが意外と便利である。だいいち停電になっても安心である。
 ミライには、車内にコンセントが付いている。家庭などで使うあれである。やろうと思えば、あれに冷蔵庫やパソコンなどをつないで、立派に生活できてしまうかもしれない。まあ、もちろん、そんなことは実際にはやらない。私はまだ一回も使ったことがない。USB端子も付いているのだが、こちらは、何度かスマホの充電に使ったことがある。
 国は、ミライのコンセントが目当てなのである。おそらく災害が起こったら、国はミライを借り上げて、避難所にズラッと並べるのだろう。ミライの近くには、炊き出し用のテント村ができるだろう。そこに炊飯器がズラッと並び、IHクッキングヒーターでは、大鍋にカレーがぐつぐつ言うだろう。
 停電になっても、ミライさえあれば、電気製品が普通に使えるというわけだ。しかし、肝心の水素が使えなかったら、ミライも発電することができなくなってしまう。水素ステーションはそんなに普及するのだろうか。とても気になるところなので、少し調べてみた。
 次世代自動車振興センターのサイトによると、現在水素ステーションは全国で一六〇箇所ほど設置されている。
 また、経済産業省の「今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理」によると、日本の水素戦略には、三つのフェーズある。現在は、フェーズ1の時代で、ミライなどのFCVを普及させることに重点がある。二〇二〇年代の後半には、フェーズ2に入り、水素発電や水素インフラの整備を計画しているようだ。二〇四〇年代には、水素製造時にCO2が発生しないようになる、本格的なクリーンエネルギー社会の構築を計画しているようだ。
 ミライは、静かで快適な車なので、これがだんだん増えてくると、道路も静かになるかもしれない。(2022/04/16)
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 すいす物語
◆ 執筆年 2022年2月5日~