安部礼二小説作品集

7

　　二〇二二年七月

　ミライを買ったためというより、十四年ぶりに新車に乗り換えたためと言った方が正しいが、ステレオがすっかり変わった。
　前に乗っていたプリウスには、ハードディスクが付いていたから、ＣＤをたくさん録音でき、便利だと思った。
　ところが、ミライにはハードディスクというものはなかった。ＣＤは聴けるのだが、一枚しか入らない。あちこち探していると、ひじ掛けのところのボックスにＵＳＢ端子があった。ＵＳＢに音楽データをコピーして差し込んでみると、ちゃんと聴ける。とにかく手当たり次第ＵＳＢに入れたから、全部順番に聴くのに三週間ぐらいかかった。ハードディスクが付いていないはずである。ディスプレイを見ると、ＣＤ、テレビ、ラジオ、ＵＳＢのほかに、ブルートゥースというのがあった。ブルートゥースというのは、ほとんどなじみがない。昔、なにかでこれを使おうとしたが、うまくいかないので、断念した記憶がある。
　すると、妻がスマホをブルートゥースでスピーカーにつなぎ、音楽を聴く方法を教わってきて、それにはまっている。はまっているだけではなくて、私にもこの方法を利用するべきだと勧めた。非常に簡単なのだと言うから、やってみると、ほんとうに非常に簡単であった。無料の音楽アプリというのがあって、それでなんでも聴けるのである。今まで自分が集めたＣＤはいったいなんだったのだろう？　と、虚しい思いがするほどであった。しかし、その虚しい思いというのは、無料音楽アプリの快適さに打ち消されて、きれいさっぱり忘れ去ることができる程度のものであった。車でも聴けるから、やってみるとよいと言われ、やってみると、例のブルートゥースの画面に曲名やら顔写真やらが出てきて、音が鳴った。そう言えば、ミライを買ったときに、車から携帯電話ができるよう、なじみの営業の方がブルートゥースの設定をしてくれていたのだった。なんだＵＳＢに苦労してデータを移さなくても、はじめからスマホの無料音楽アプリで聴けばよかったじゃないか。そう思ったが、半年前はそんな知識を持っていなかったのだから、仕方がない。
　だけど、なんでこの無料音楽アプリは、なんでも聴けるのだろう。私の場合は、日が浅いためかまだ出てこないが、妻のはよくＣＭが出てくる。私のも早晩出てくるだろう。それがおそらくは理由なのだろうと思うが、それだけではないような気もする。聴いているうちに、自分の知らなかった歌手やら曲やらに興味が湧いて、そういうものを結構買う人が出てくるのだろうか？　無料音楽アプリを利用すれば、携帯電話の利用度も上昇するから、携帯電話会社から無料音楽アプリ会社にお金が流れこむのだろうか？
　それはともかく、エアコンが効いた車内で夏向きの曲を聴くのは気持ちのよいものである。（2022/06/27）