すいす物語

すいす物語
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  二〇二二年八月

 仕事の都合で、隣県の山岳地帯に宿泊した。ミライで山道を登るのは初めてだ。
 ミライがどうやって山を登るのかわからなかったので、控えめに走った。ローギアというものがないので、急坂が心配だったが、特に問題はなかった。
 翌日、下りを走った。栗を使った菓子で有名な町があるので、そこまで山の外周を走った。ブレーキを踏みすぎないようにするため、時速を四十キロに設定したが、速度はどんどん上がった。しかし、六十キロを越えると、五十弱まで自動で速度が下がった。それでもブレーキを踏むことは多くなった。
 ミライにドライブモードの切り替えボタンがあることは知っていた。スポーツモードとノーマルモードとエコモードの三段階に切り替えられる。しかし、ノーマルモード以外は使ったことがなかった。スポーツモードに切り替えると、山道をもっと楽に走れるのではないかと思ったが、使わなかった。まずはノーマルモードで一通り走ってみなければ、スポーツモードでの走りとどう違うかわからないと思ったからだ。三十キロぐらい走り続けた。なんとなく山の走り方がわかってきた。いよいよだと思った。ボタンを押した。エコモードになった。ボタンをもう一度押した。やはりエコモードのままだった。ボタンを押した回数に従って、ノーマルモード→エコモード→スポーツモード→ノーマルモード……のように切り替わると思ったので、困った。ボタンを押す位置を変えたりしているうちに、仕組みが分かった。ボタンの下部を押すとエコモードになり、上部を押すとスポーツモードになるのだった。上部を押した。メインパネル上部に赤い水平の線が現れ、スポーツモードと表示された。ハンドルの感触や足回りが、変わったような気がする。しかし、もう町の近くに来ていた。残念ながらスポーツモードの性能を試す機会はない。
 町で土産を買い、自宅に目的地設定した。最寄りのインターは県庁所在地にあった。それではもしかすると水素ステーションもあるのではないかと思い、試しにアプリで検索してみた。すぐ近くにあった。まだ水素は半分ぐらいあったが、自宅まで二百キロ弱あったので、念のために補給することにした。十分ほどで到着した。セルフであった。セルフのすいすがあるとは知っていたが、まさか実際に利用するとは思ってもみなかった。さて、どうやって入れればいいのだろうと思いながら、車から降りようとすると、店員が近づいた。カードを渡すと、入れてくれた。セルフで水素を入れる機会は、またいつかやってくるだろう。
 高速道路をスポーツモードで走った。ノーマルモードとは明らかに違った。加速がよく、パワフルである。減速もスムーズである。きびきびして、爽快感がある。しばらくこれで走ってみよう。一度使ったらやめられなくなりそうだ。しかし、水素は早く減りそうな予感がある。(2022/07/30)
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 すいす物語
◆ 執筆年 2022年2月5日~