安部礼二小説作品集

12

　　二〇二二年一二月

　ディーラーからタイヤ履き替えを勧めるはがきが届いた。一二月になると混み合うので、一一月に履き替えた方がよいということだ。はがきを持参すると入浴剤がもらえると書いてある。電話をして予約した。
　ミライのタイヤは大きい。ガレージのタイヤラックには入らないので、ディーラーに保管してもらっている。保管料がかかるが、履き替えのとき、楽である。
　ディーラーで待っている間、テレビを見ていると、バナナの皮で靴を磨く人がでてきた。きれいになっていた。少しバナナの匂いが残るそうだ。いつか試してみようかと思う。
　次に、バナナの皮を炒めて、ベーコンを作る人がでてきた。ラードを塗ると、ベーコンらしくなるそうだ。これは、試してみたいと思わなかった。同じ人が、こんにゃくでふぐ刺しを作っていた。これも、試すことはないだろう。
　テレビというものを見る習慣がないので、こういうときにたまたま見ていると、面白いと思う。
　以前、やはりこのディーラーで、このテレビを見ていたら、歯科医が歯間ブラシを使うタイミングを解説していた。出演者に、歯磨きをする前と歯磨きをしたあとでは、どちらがよいかきいていた。自信たっぷりに歯磨きをしたあとがよいと答える出演者がいた。正解は、歯磨きをする前だった。歯の隙間に食べかすが残った状態で歯磨きをすると、歯磨き粉の成分がその部分には浸透しないので、最初に食べかすを除去しなければいけないと解説していた。なるほど、これからは歯磨き後ではなく、歯磨き前に歯間ブラシを使おうと思った。
　その番組を見たのは、もう数カ月前である。それ以来ずっと歯磨き前に歯間ブラシを使っている。たしかに歯科医の言ったとおりだと感じている。
　こうしてみると、テレビというものは、なかなかよいものだなあと思う。しかし、自分の場合は、一度見だすと、けじめなく、だらだら見てしまうので、禁じているのだ。こうしてたまに見るぐらいが合っているようだ。
　テレビと言えば、すいすに早く到着してしまい、昼休みが終わるまで車内で三〇分ぐらい待ったことがあるが、そのとき、なんの気なしにテレビをつけたら、駅伝をやっていた。先頭の女子大生を白バイと白い車が先導していた。白い車はどこかで見た顔だなと思ったら、ミライだった。なるほどこういうところに、化石燃料不使用の車を投入して、環境対策をアピールしているのだなと感心した。
　そんなことを思い出していたら、履き替えが終わった。
　ディーラーを去り、はがきについて思い出した。渡さずに店を出たのだった。しかし、よく考えたら入浴剤をもらっても、使うことはなさそうなので、もらわなくてかえってよかった。（2022/11/27）