すいす物語

すいす物語
prev

13

  二〇二三年一月

 ミライに乗って、もう一年がたつ。
 その間に、いろいろなことが変わった。
 当然のことではあるが、ミライを買ってから、一度もガソリンスタンドに行っていない。買う前は、漠然とした不安があった。ミライを買ったら、ガソリンスタンドに行かなくなるはずだが、果たしてそんなことがあり得るのだろうかと、真剣に思った。これまで、車を足として暮らす中で、定期的にガソリンスタンドに足を運ぶのは、いわば必要不可欠なことだったからだ。本当にガソリンを使わなくても、なんの支障もなく、車社会でやっていけるのだろうか? 途中で、やはりガソリンがないと車社会では生きられないと気づき、ミライを手放し、ガソリン車に乗り換えることになるのではないか? そんな不安はあった。水素ステーションは、今のところあまり便利とは言えないが、それでも、車社会で生きていくのに支障のないようには、燃料補給できる場所であった。
 これは、運転に必要不可欠とは言い難いが、副次的な変化として、音楽の聴き方が変わった。ミライには(ミライに限らず今の車全般に言えることだろうが)、CDが一枚しか入らない。ハードディスクもない。たくさんの曲を車に持ち込むときは、USBなどにコピーする必要がある。
 これは、最初、不便だと思った。しかし、ブルートゥースでスマホをつなぐと、音楽アプリで再生した曲が、CDと同じように聴くことができることがわかった。思い切ってアプリを使ってみることにした。水素ステーションに切り替えるのと同じというわけではないが、心配は払拭されて、常用品になった。それ以来、家でも、CDをコンポで再生することはなくなり、アプリで再生した曲を、ブルートゥースでつないだスピーカーなどで流すようになった。初めは、そんな聴き方に変えても、すぐに元に戻るだろうと思ったのに、戻らなかった。これは、ガソリンから水素に変わったことと、ある意味で同じである。無料版だと、さまざまな制限があるので、しばらくして会員登録した。すると、ほんとうに自由自在に聴きたい曲が流れるようになった。もうCDを買うことはないだろう。現在持っているCDなども処分しようと思っている。ラジオ番組で聞いた話だが、ヨーロッパでは、もうCDが流通していないのだそうだ。日本もいずれそうなるのかもしれない。このアプリは、たしかに料金がかかるが、それでも、一ヶ月一枚CDを買うよりは、安上がりである。
 そのほかにも、この一年で変わったことは多かった気がする。軍事的な衝突の影響で世界が変化してきたことは、まだ日常生活にはそれほど波及していないが、いずれ目に見える形で影が差すに違いない。
 この原因には、さまざまな要素があるのだろうが、その一つに脱炭素社会への変化の兆しがあったのではないかと思う。ヨーロッパは車のEV化が進んでいるようだ。トヨタも社員にEV手当を支給するらしい。
 一年間ガソリンスタンドに行かなくても、特に困らなかったので、だんだん世の中の人々もガソリンに対する考えが変わっていくかもしれない。来年は、どんなことが変わるだろうか。(2022/12/24)
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 すいす物語
◆ 執筆年 2022年2月5日~