すいす物語

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  二〇二三年五月

 車内で聴くものも、少しずつ移り変わっていく。
 音楽アプリには、いろいろなものが入っている。
 落語が好きだから、落語なんかあるだろうかと思って、検索してみると、あった。
 三十時間ぐらいずっと落語をやっているのである。これは、いつまで聴いていても、いっこうに終わらない。
 とはいっても、志ん生とか、志ん朝とか、円生とか、昔の名人は、出てこない。
 どういうのが出てくるかというと、さん喬とか、雲助とか、権太楼とか、なかなか面白い噺家がいる。
 さん喬は、歯切れがよく、間の取り方がうまい。ちょっとしたことでも、さん喬がやると、客が大笑いする。『掛取萬歳』、『ちりとてちん』などが面白かった。また、『浜野矩随』、『芝浜』などの人情者も、非常によかった。
 雲助は、さん喬のように大うけするタイプではないが、古典落語を非常にきっちりとやってくれる。『芝浜』がいい。『淀五郎』もすばらしい。『淀五郎』は、志ん生のを聴いたことがあるが、こちらは、ややおおざっぱで、雲助のは、細かいところまで行き届いている。もちろん、志ん生のも、人情味がある。雲助の『掛取萬歳』も、また一味違ったよさがある。
 権太楼は、不思議に味がある。『二番煎じ』は、柳橋のを聴いて、面白いと思ったが、権太楼のも一味違ったよさがある。『猫の災難』は、とても面白かった。
 ほかにも、入船亭扇遊の『巌流島』、『厩火事』が面白かった。扇遊の『たちきり』は、悲しい話だった。最後の三味線が耳に残っている。
 花緑は、上手だが、かなり現代的になっている。これからは、このような噺家が主流になるのだろうか。一之輔も面白いが、やはり現代的である。花緑と一之輔に共通するのは、前置きが長いことだ。本題よりも、前置きの方が面白いようである。
 落語を全部聴き終わったころ、ついに水素ステーションがセルフになった。
 初回は、スタッフから教育を受けなければならない。
 最初に、水素容器の有効期限を入力する。これは、二回目以降は省略できる。
 次に、充填ノズルの使用方法を教わる。水滴をエアーガンで除去する。水滴がついていると、凍りついてノズルが取れなくなることがあるそうだ。ノズルを充填口に差し込み、レバーをカチッと引くと、外れなくなる。スタートボタンを押すと、あとは、自動的に水素が充填される。二、二キロ入った。勤務先が変わり、通勤距離が短くなったので、あまり水素が減らない。ノズルの収納にてこずったが、コツを教わったので、次は大丈夫だろう。
 最後に、書類を書くと、QRコードが印字されたカードをもらった。これがあれば、次回からは、ほんとうに一人でできるのである。
 次の週に、一人で水素を入れてみようと思ったら、持病が悪くなり、入院になってしまった。水素ステーションも音楽アプリも、便利であるが、いまの病院も便利で快適である。ホテルみたいな部屋で、スマホやノートパソコンも、普通に使えるのである。今回のすいす物語は、病室で書いているのである。(2023/4/29)
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 すいす物語
◆ 執筆年 2022年2月5日~