安部礼二小説作品集

20

　　二〇二三年八月

　ミライに乗って、家電量販店に行った。
　別の用事で行ったのだが、展示されているある商品の使い方を動画で説明しているコーナーに引き寄せられてしまった。
　店に入ると、つい衝動買いをしてしまうことがあるので、気をつけている。
　その商品も見るだけにしようと思った。
　水を高圧で噴射する電気製品であった。映像では、男性が車を洗車していた。洗浄剤を先端に装着すると、みるみるうちにクリームのような泡で車が覆いつくされた。
　先端のノズルを交換すると、高圧の水が車の汚れを泡といっしょに洗い流した。
　店に入ると衝動買いをしてしまうことがあるので、十分に気をつけているが、まれに購入してしまうことがある。
　男性が映像で使っていた高圧洗浄機を手にして、駐車場のミライまで気もそぞろで歩いていた。
　さっそくミライを洗うことにした。
　機械にホースをつなぎ、電源コードを外のコンセントにつないだ。
　汚れたバケツにあった容器の汚れた洗浄剤をタンクに充填し、持ち手の先端に装着した。
　持ち手をミライに向けて、レバーを押すと、クリームのような泡がミライを覆いつくした。
　先端のノズルを交換し、高圧で水を噴射した。泡も汚れもどんどん流れ落ちていく。
　ふき取りクロスでふき取った。ふき取りクロスはきれいなままである。
　これをどうしたらいいだろうと悩むことがいろいろある。洗車もその一つだった。世の中には解決法というものがあるものである。
　便利なものとか、効果的な手段というものを調べて、試す価値はあるものである。
　あまりこだわらずに、いろいろやり方を変えていくのは、いいことなんだろう。
　ミライに乗って、また大きな病院に行った。
　手術前のいろいろな検査や説明を受けた。
　造影剤を使ったＣＴというのを、初めて経験した。
　なんとなく造影剤というのが不安で、いままではためらっていたが、とうとうやることになった。これはもう、手術前のオプションとしてどうしても必要なので、仕方がないのである。
　造影剤を入れるための注射針は太くて痛いとか、入れるときに痛いとか熱いとか、そんな経験談を読んでいたので、やはり不安であったが、点滴の針を入れるときは、それほど、いままで受けた注射に比べて痛いという感じはなかった。造影剤を入れると体が温かくなりますよと看護師が説明した。「しものほうが温かくなると言う人がいます」という言葉が印象に残った。
　造影剤が入った。痛みはあった。少したつと体が温かくなった。看護師さんの言うとおり、しものほうが温かくなるなあと思った。一度やってみると、次にやることがあっても、それほど不安にはならないなと思った。（2023/7/28）