すいす物語

すいす物語
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  二〇二五年一月

 AHEADについて調べてみた。千代田化工と日本郵船と三井物産と三菱商事が中心になって取り組んでいるプロジェクトのようだ。水素をトルエンに付加して、常温で液体のMHCにして日本に輸送するというものだ。これも水素インフラの主要なものの一つになるのは、間違いなさそうだ。
 現在はシンガポールで実証実験をしているようだ。二〇年代の後半にはシンガポールで水素供給の事業化が開始されるらしい。いまはまだ水面下の動きのような感じもあるが、これが水面から顔をだし、だれもが水素が使われていることを実感したときは、MHCはもう当たり前の水素供給方法になっているだろう。十年ぐらい前に初めて朝日新聞で千代田化工のMHCを知ってから、ずいぶんと時が流れたものだ。当たり前の歴史を知った気がする。
 今回の関係ある歌は、石原裕次郎の『銀座の恋の物語』と、山口百恵の『ひと夏の経験』を取りあげてみたい。これは、このまま制作順である。
 『銀座の恋の物語』。一九六一年、大高ひさを作詞、鏑木創作曲。『ひと夏の経験』。一九七四年、千家和也作詞、都倉俊一作曲。
 『銀座の恋の物語』は、石原裕次郎と牧村旬子のデュエットである。牧村旬子の「心の底まで しびれる様な」が非常に印象的である。これに、すぐ、「吐息が切ない 囁きだから」と、裕次郎が渋い声で続ける。大人の恋のムードである。これと、山口百恵がまだ中学生だったころの、きわどい表現に感じてしまう『ひと夏の経験』の歌詞に関係があるだろうかと、この文章を読む人は思うであろう。作詞家が『銀座の恋の物語』を意識してこれを書いたかどうかは知る由もない。しかし、次の歌詞は、『ひと夏の経験』と共通しているところだ。

 誰にも内緒で しまっておいた
 大事な女の 真ごころだけど
 貴男のためなら 何もかも
 くれると言う娘の いじらしさ

 渋い『銀座の恋の物語』の大人の恋は、『ひと夏の経験』にいくと、こうなる。

 あなたに女の子の一番
 大切なものをあげるわ
 小さな胸の奥にしまった
 大切なものをあげるわ
 愛する人に 捧げるため
 守ってきたのよ

 この二曲の意外な共通点に気づいた人がどのくらいいるのだろうか? しかし、少なくとも歌っていた山口百恵は、そのことに気づき、そして、賢明にその共通点を利用していたと思う。
 中学三年生の山口百恵は、レポーターから、女の子の一番大切なものはなにかときかれたことがある。このとき彼女は、真心ですと答えた。このような言葉が中学三年生の女の子から即座にでてくるだろうか? いや、でてくるかもしれない。しかし、あらかじめこういう質問を想定して、どういうふうに答えようか対策を練っていたことも十分に考えられる。そのときに、『銀座の恋の物語』が脳裏にひらめいたかもしれない。そんなふうに思われてならない。あるいは、レコード会社の担当者とそういう打合せをしていたのかもしれない。(2024/11/19)
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 すいす物語
◆ 執筆年 2022年2月5日~