すいす物語

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  二〇二五年六月

 水素のことを調べていたら、アメリカのFIRST ELEMENT FUELという企業を見つけた。
 水素が周期表の最初の元素であるというところからつけられた企業名だそうである。トヨタやホンダの出資により、水素ステーションネットワークを、カリフォルニア州全域に構築しているようだ。
 今回の関係ある歌は、いしだあゆみの『喧嘩のあとでくちづけを』。一九六九年、なかにし礼作詞、中村泰士作曲。荒井由実の『ルージュの伝言』。一九七五年、荒井由実作詞、作曲。斉藤由貴の『青空のかけら』。一九八六年、松本隆作詞、亀井登志夫作曲。

 あなたにしてみれば ささいなことでも
 私にしてみれば きがかりなの
 鏡の上にそっと あなたの悪口を
 ルージュで書いたあとは
 涙を見せないわ
 嘘でもいいから こっちを向いて
 喧嘩のあとで くちづけを

 そんなところにそんなことを書かないでくれと男性が思わずいってしまいそうなことを女性がする。
 しかし、原因はいつも男性にありそうである。そんな歌を今回は集めてみた。
 『喧嘩のあとでくちづけを』は、男性にみられないようにこっそり書いたのか? 男性に疑惑を抱きながらも、耐え忍んで待つ。この時代に置かれた女性の立場がよく表れている。

 あのひとは もう気づくころよ
 バスルームに ルージュの伝言
 浮気な恋を はやくあきらめないかぎり
 家には帰らない

 『ルージュの伝言』の女性は行動的である。『喧嘩のあとでくちづけを』の女性のように、うわべだけの休戦協定は結ばない。男性の母親のところに出かけ、訴えるのである。婚姻関係の維持は、男性が不倫をやめることが条件である。『喧嘩のあとでくちづけを』のような曖昧な和平ではなく、監視人を設定したうえでの、明確な和平協定を持ち掛けているのである。一九七〇年代になると、女性の意識がかなり変わり始めてきたのかなと感じるのである。

 Ah ヨットの帆に書いたGood―Bye
 Ah 気付く頃ね 怒るかしら
 追いかけても もうIt's Too Late

 『青空のかけら』でメッセージを書くのに用いた素材は、この三つの歌の中では、男性にとっていちばん痛いものだろう。女性は、よほどいやな思いをしたのだろう。

 型紙の通りの(優しさの糸と)
 女の子なんて(さよならの針で)
 望んでも無理よ(想い出を縫うの)

 もう一九八〇年代になると、勝手に男性が思っている女性のあるべき姿など、女性は甘んじようとは思っていない。流行歌を十年刻みで聴き比べるだけで、人々の意識の変容までも感じられて、とてもおもしろいものである。(2025/3/23)
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 すいす物語
◆ 執筆年 2022年2月5日~