按察
87
摂津派や信者たちが持ってくるお供え物や花はとても多く、仏前にはとても置ききれないので、それらは休憩室をも色鮮やかに飾り立てていた。
しずくは、弘徽殿でも、宣耀殿の女御が通りかかるときに、意地悪を仕掛けた話をした。
「まあ、お気の毒さまね」
「でもね、宣耀殿の女御様は、少しもお怒りにならないのよ」
「偉いわねえ」
「かえって、私の琵琶をほめてくださるのよ」
「へえ、さすが権大納言様の娘だわ」
「そうね。ねえ、これが縁で私が宣耀殿の女御様に気に入られて、頭弁様とお知り合いになっちゃったら、どうしよう?」
「もう、しずくったら、すぐ想像力をたくましくするんだから」
「だって、頭弁様、かっこいいんだもん」
「お目にかかったの?」
「一、二度だけ、ちらっとね」
「なんだあ」
「そう言えば、少納言も、今度、少将様のお屋敷にお仕えすることになったんでしょ?」
「あら、さすがしずく、耳が早いわね」
「少将様と言えば、頭弁様や宣耀殿の女御様のお兄様じゃない。ねえ、やっぱり、少納言の目からもかっこいい?」
「ええ、とても」
「いいなあ、少納言も備前も」
「でも、女房たちとは、あまり話をしない方なのよ」
「奥様一筋?」
「そう。中の君をとても大切にしてるわ」
「備前とは、まだ続いているんでしょ?」
可須水は、木いちごの悲しみに思いをはせながら、首を振った。
「備前は、式部丞と結婚したわ」
「そうだったの! 意外ね、あんなに仲のよい二人だったのに」
「でも、式部丞と順調な家庭生活が始められたみたいよ」
「じゃあ、もう、少将様とは、なにもないの?」
「なにもないわ」
「意志が強い方なのね」
「そうよ、少将様は、女房たちのだれとも親密にならない方よ」
「でも、ほかに奥様はいらっしゃるんでしょう?」
「それが、ほんとにだれもいないの」
「でも、内緒の恋人の一人、二人は」
「その様子もなさそうなの」
「以前の任地の越前は?」
「どうかしらね。ほんとに堅い方よ」
「おうちでなにをなさっているの?」
「弓や刀の稽古を、武士たちと一緒に、本格的にしていらっしゃるわ」
「質実剛健ね」
「そうなの。権大納言様のご子息というから、優美なお遊びを催されるのかと思っていたら、まったく違うの。なんか武家屋敷みたいよ」
「へえ、珍しい方ね。それじゃあ、中の君は、退屈なさってるんじゃない?」
「それが、そうでもないの。なんか馬が合うみたいで、左大臣家よりものびのびと暮らしていらっしゃるわ」
「あら、武家の素質があるのかしら?」
「そうかも」
二人が、いつ終わるともしれずに、話し込んでいると、尼が膝をついて、また、挨拶をした。
「ほんとうに今日はありがとうございました。たくさんのお布施をいただきまして、恐縮しております。ほんとうになにも持たずに、気楽においでいただければいいですのに」
「いえ、いえ、わずかばかりで、心苦しい限りでございます」
「素敵な萩の花もありがとうございました。どうですか? このあたりにとても可憐な萩の花があるのですが、もしお時間がございましたら、ご一緒に摘みに参りませんか?」
「わあ、それは素敵だわ! もちろん、参りますわ」
可須水は、即座に賛成した。
「私も」
しずくも同調した。
しずくは、弘徽殿でも、宣耀殿の女御が通りかかるときに、意地悪を仕掛けた話をした。
「まあ、お気の毒さまね」
「でもね、宣耀殿の女御様は、少しもお怒りにならないのよ」
「偉いわねえ」
「かえって、私の琵琶をほめてくださるのよ」
「へえ、さすが権大納言様の娘だわ」
「そうね。ねえ、これが縁で私が宣耀殿の女御様に気に入られて、頭弁様とお知り合いになっちゃったら、どうしよう?」
「もう、しずくったら、すぐ想像力をたくましくするんだから」
「だって、頭弁様、かっこいいんだもん」
「お目にかかったの?」
「一、二度だけ、ちらっとね」
「なんだあ」
「そう言えば、少納言も、今度、少将様のお屋敷にお仕えすることになったんでしょ?」
「あら、さすがしずく、耳が早いわね」
「少将様と言えば、頭弁様や宣耀殿の女御様のお兄様じゃない。ねえ、やっぱり、少納言の目からもかっこいい?」
「ええ、とても」
「いいなあ、少納言も備前も」
「でも、女房たちとは、あまり話をしない方なのよ」
「奥様一筋?」
「そう。中の君をとても大切にしてるわ」
「備前とは、まだ続いているんでしょ?」
可須水は、木いちごの悲しみに思いをはせながら、首を振った。
「備前は、式部丞と結婚したわ」
「そうだったの! 意外ね、あんなに仲のよい二人だったのに」
「でも、式部丞と順調な家庭生活が始められたみたいよ」
「じゃあ、もう、少将様とは、なにもないの?」
「なにもないわ」
「意志が強い方なのね」
「そうよ、少将様は、女房たちのだれとも親密にならない方よ」
「でも、ほかに奥様はいらっしゃるんでしょう?」
「それが、ほんとにだれもいないの」
「でも、内緒の恋人の一人、二人は」
「その様子もなさそうなの」
「以前の任地の越前は?」
「どうかしらね。ほんとに堅い方よ」
「おうちでなにをなさっているの?」
「弓や刀の稽古を、武士たちと一緒に、本格的にしていらっしゃるわ」
「質実剛健ね」
「そうなの。権大納言様のご子息というから、優美なお遊びを催されるのかと思っていたら、まったく違うの。なんか武家屋敷みたいよ」
「へえ、珍しい方ね。それじゃあ、中の君は、退屈なさってるんじゃない?」
「それが、そうでもないの。なんか馬が合うみたいで、左大臣家よりものびのびと暮らしていらっしゃるわ」
「あら、武家の素質があるのかしら?」
「そうかも」
二人が、いつ終わるともしれずに、話し込んでいると、尼が膝をついて、また、挨拶をした。
「ほんとうに今日はありがとうございました。たくさんのお布施をいただきまして、恐縮しております。ほんとうになにも持たずに、気楽においでいただければいいですのに」
「いえ、いえ、わずかばかりで、心苦しい限りでございます」
「素敵な萩の花もありがとうございました。どうですか? このあたりにとても可憐な萩の花があるのですが、もしお時間がございましたら、ご一緒に摘みに参りませんか?」
「わあ、それは素敵だわ! もちろん、参りますわ」
可須水は、即座に賛成した。
「私も」
しずくも同調した。