All You Need Is Book(本こそすべて)
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『古都』川端康成
川端のギャップにはいつも驚かされる。静謐な文章、情趣あふれた舞台、人と人の洗練されたやりとり。しかし、『踊り子』にしろ『雪国』にしろ、エレガントな包みの一枚向こうに、淫靡といってもいいような、妙になまめかしい記憶を呼び起こさせる何かがひそんでいるのだ。古都を読んでも、やはりそう感じた。しかも、その感覚的ななまなましさは、あまりにも静かなタッチゆえ、かえって深部にまで入り込んできた。
べんがら格子の呉服問屋で成長した、美しく、心のまっすぐな、しかし、どこか陰がある千重子の物語である。千重子の不思議を解いていくおもしろさがある。
平安神宮の桜に始まり、森嘉の豆腐、時代祭、化野念仏寺、大市のすっぽん、祇園祭、そしてなにより北山杉。京の風物が次から次へと出てきて、るるぶより影響力が強い。千重子がたどったとおりに、忠実に京を歩きたい。着物や帯に織られた図柄が目に浮かんでくる。美しい日本の工芸品のような小説である。日本人に生まれてこの作品を読まずに死んだら残念だっただろうに、とまで思わせられた。
ショパンやモーツァルトのあまりにも完全な形をした、美しい調べを聴くと、かえって異常を感じる。川端のあまりにもきれいな形をしたこの作品にも何か異様なものを感じた。新聞に連載していたとき、睡眠薬中毒でかなり危険な状態だったそうだ。書いていた記憶があまりないという。従って、上梓の際、読み返してかなり直したらしい。しかし、乱れたままにしたところもあるそうだ。読んでいると、酒か何かで変になっているときのような感覚になるのはそのためなのであろうか。また、それがいい。(2011/1/14)
川端のギャップにはいつも驚かされる。静謐な文章、情趣あふれた舞台、人と人の洗練されたやりとり。しかし、『踊り子』にしろ『雪国』にしろ、エレガントな包みの一枚向こうに、淫靡といってもいいような、妙になまめかしい記憶を呼び起こさせる何かがひそんでいるのだ。古都を読んでも、やはりそう感じた。しかも、その感覚的ななまなましさは、あまりにも静かなタッチゆえ、かえって深部にまで入り込んできた。
べんがら格子の呉服問屋で成長した、美しく、心のまっすぐな、しかし、どこか陰がある千重子の物語である。千重子の不思議を解いていくおもしろさがある。
平安神宮の桜に始まり、森嘉の豆腐、時代祭、化野念仏寺、大市のすっぽん、祇園祭、そしてなにより北山杉。京の風物が次から次へと出てきて、るるぶより影響力が強い。千重子がたどったとおりに、忠実に京を歩きたい。着物や帯に織られた図柄が目に浮かんでくる。美しい日本の工芸品のような小説である。日本人に生まれてこの作品を読まずに死んだら残念だっただろうに、とまで思わせられた。
ショパンやモーツァルトのあまりにも完全な形をした、美しい調べを聴くと、かえって異常を感じる。川端のあまりにもきれいな形をしたこの作品にも何か異様なものを感じた。新聞に連載していたとき、睡眠薬中毒でかなり危険な状態だったそうだ。書いていた記憶があまりないという。従って、上梓の際、読み返してかなり直したらしい。しかし、乱れたままにしたところもあるそうだ。読んでいると、酒か何かで変になっているときのような感覚になるのはそのためなのであろうか。また、それがいい。(2011/1/14)