All You Need Is Book(本こそすべて)

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『パルムの僧院』スタンダール
ヘミングウェイを紹介したときに、彼がフランスで文学修行したころ、スタンダールに強く影響を受けたと書いた。特に『パルムの僧院』における行動の描き方は、『武器よさらば』に濃く表れる。
日本ではスタンダールというと『赤と黒』というイメージが強い。これはおそらく、この作品における心理描写の巧みさが、心理を細かく描くことにことさら重きを置いていた、往時の日本文学の風潮とあっていたからであろう。しかし、『パルムの僧院』を読まなければ、スタンダールの醍醐味を味わい尽くすことは到底出来ない。
スタンダールはモリエールのような喜劇作者を目指していたが、挫折し小説家になった。したがって、痛快なユーモア、生き生きとした人物のやりとりは意のままである。『パルムの僧院』を読めばすぐわかるが、特に下巻は、アクションや痛快な皮肉のやりとり、笑いを取る言葉などが満載で、まるでハリウッド映画の台本を読んでいるようである。そう、スタンダールをかしこまって読んではいけない。漫画や娯楽雑誌のように気楽に読み飛ばせばいいのだ。
主人公ファブリス出生は訳ありだ。ナポレオンに占領されたパルムで、フランス将校がある貴族の邸宅を宿所にする。主人は敵軍駐屯に恐れをなしスイス付近の別荘に逃げていた。残された奥方が駐屯する敵軍将校と思いを寄せ合う。その後生まれたファブリスは、後先考えずに思い切ったことをして窮地に陥る。彼を疎ましく感じる父と兄の陰謀によって、ファブリスの官憲から逃げ回る人生がはじまる。
特に下巻は見所満載だ。ファブリスを庇護する叔母のサンセヴェリナ公爵夫人が、甥のためにパルム大公と直談判するシーン。ついに捕縛され城塞の牢獄に幽閉されたファブリスが、城塞を居所としている将軍の娘クレリア(ちなみに、叔母のサンセヴェリナ公爵夫人はイタリア一、クレリアはイタリア二番の美人)と偶然通信する手段を得て、ファブリスに恨みを持つ男によって毒殺される直前に危機を教えられるシーン。クレリアが切々と胸中を訴えるシーン。
ハラハラドキドキ、ロマンチックの連続で、これはまさに、現代のハリウッド映画の典型的な構成法と同一のものに思える。陰りがなく、軽快で、観たあとに胸がすっきりする、ハリウッド映画は、やはりこういった文学作品を土壌にしたところに生み出されるのだと、つくづく感じた。どちらがよいということではないが、日本の文学、映画の依って立つところとは、まるで違っているという気がした。
パルムだとちょっとぴんとこないかもしれない。パルマの方が通りがいいだろう。往時のパルマ公国。現在はエミニア=ロマーニャ州パルマ県。ヴェネツィア、ミラノ、ジェノヴァ、フィレンツェと距離的に近い。サッカーの中田選手が現在のパルマFCに所属していたことがある。パルマは美食の都でもある。パルミジャーノという名のチーズや、世界三大ハムの一つ、パルマハム(正式にはプロシュット・ディ・パルマ)という生ハムでも有名だ。(2011/3/8)
ヘミングウェイを紹介したときに、彼がフランスで文学修行したころ、スタンダールに強く影響を受けたと書いた。特に『パルムの僧院』における行動の描き方は、『武器よさらば』に濃く表れる。
日本ではスタンダールというと『赤と黒』というイメージが強い。これはおそらく、この作品における心理描写の巧みさが、心理を細かく描くことにことさら重きを置いていた、往時の日本文学の風潮とあっていたからであろう。しかし、『パルムの僧院』を読まなければ、スタンダールの醍醐味を味わい尽くすことは到底出来ない。
スタンダールはモリエールのような喜劇作者を目指していたが、挫折し小説家になった。したがって、痛快なユーモア、生き生きとした人物のやりとりは意のままである。『パルムの僧院』を読めばすぐわかるが、特に下巻は、アクションや痛快な皮肉のやりとり、笑いを取る言葉などが満載で、まるでハリウッド映画の台本を読んでいるようである。そう、スタンダールをかしこまって読んではいけない。漫画や娯楽雑誌のように気楽に読み飛ばせばいいのだ。
主人公ファブリス出生は訳ありだ。ナポレオンに占領されたパルムで、フランス将校がある貴族の邸宅を宿所にする。主人は敵軍駐屯に恐れをなしスイス付近の別荘に逃げていた。残された奥方が駐屯する敵軍将校と思いを寄せ合う。その後生まれたファブリスは、後先考えずに思い切ったことをして窮地に陥る。彼を疎ましく感じる父と兄の陰謀によって、ファブリスの官憲から逃げ回る人生がはじまる。
特に下巻は見所満載だ。ファブリスを庇護する叔母のサンセヴェリナ公爵夫人が、甥のためにパルム大公と直談判するシーン。ついに捕縛され城塞の牢獄に幽閉されたファブリスが、城塞を居所としている将軍の娘クレリア(ちなみに、叔母のサンセヴェリナ公爵夫人はイタリア一、クレリアはイタリア二番の美人)と偶然通信する手段を得て、ファブリスに恨みを持つ男によって毒殺される直前に危機を教えられるシーン。クレリアが切々と胸中を訴えるシーン。
ハラハラドキドキ、ロマンチックの連続で、これはまさに、現代のハリウッド映画の典型的な構成法と同一のものに思える。陰りがなく、軽快で、観たあとに胸がすっきりする、ハリウッド映画は、やはりこういった文学作品を土壌にしたところに生み出されるのだと、つくづく感じた。どちらがよいということではないが、日本の文学、映画の依って立つところとは、まるで違っているという気がした。
パルムだとちょっとぴんとこないかもしれない。パルマの方が通りがいいだろう。往時のパルマ公国。現在はエミニア=ロマーニャ州パルマ県。ヴェネツィア、ミラノ、ジェノヴァ、フィレンツェと距離的に近い。サッカーの中田選手が現在のパルマFCに所属していたことがある。パルマは美食の都でもある。パルミジャーノという名のチーズや、世界三大ハムの一つ、パルマハム(正式にはプロシュット・ディ・パルマ)という生ハムでも有名だ。(2011/3/8)