All You Need Is Book(本こそすべて)

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『地獄変』(『芥川龍之介全集2』(ちくま文庫)芥川龍之介
初めて『地獄変』を読んだときに驚いたが、今回も茫然自失してしまった。美しく清楚な実の娘を、まさかこのような方法で画材に使うとは……。それほどまでに芸術は人を魅するものであろうか。また、『邪宗門』が『地獄変』の続編であることを知ったのは大きな収穫だった。『地獄変』の登場人物(なんとあの娘も出てくる)が再び繰り広げる異様な話にくびったけになった。
漢籍を下敷きにした作品も面白い。人生つかの間のことにすぎぬから出世など望まぬ方がよいと諭す幻術士に、いやそれでも実際に自分で人生を生きてみたいのだと反駁(はんばく)する蘆生(ろせい)の若々しさが印象的な『黄粱夢(こうりようむ)』は、オリジナルとはまた一味違う。
『戯作三昧』『蜘蛛の糸』『枯野抄』といったメジャーなものから、『女体』『西郷隆盛』『首が落ちた話』など、芥川はこんなものも書いていたのかと、彼の奥行きの深さを再認識させられるものまで、高品質の作品を多々楽しめる。
人生は一行(いちぎよう)のボオドレエルにも若(し)かない。あまりにも有名な芥川の言葉だが、これは、優れた面のすべてをほんの一瞬の偉大な行為につぎこむような生き方をした人間を好んで描いた彼にふさわしい。自分に罪を着せた女のために燃えさかる家屋に飛びこんでその女の娘を救助した『奉教人の死』のろおれんぞはまさにその典型だ。この作品の引用で終わりにしよう。「なべて人の世の尊さは、何ものにも換え難い、刹那(せつな)の感動に極(きわま)るものじゃ。」(2011/04/15)
初めて『地獄変』を読んだときに驚いたが、今回も茫然自失してしまった。美しく清楚な実の娘を、まさかこのような方法で画材に使うとは……。それほどまでに芸術は人を魅するものであろうか。また、『邪宗門』が『地獄変』の続編であることを知ったのは大きな収穫だった。『地獄変』の登場人物(なんとあの娘も出てくる)が再び繰り広げる異様な話にくびったけになった。
漢籍を下敷きにした作品も面白い。人生つかの間のことにすぎぬから出世など望まぬ方がよいと諭す幻術士に、いやそれでも実際に自分で人生を生きてみたいのだと反駁(はんばく)する蘆生(ろせい)の若々しさが印象的な『黄粱夢(こうりようむ)』は、オリジナルとはまた一味違う。
『戯作三昧』『蜘蛛の糸』『枯野抄』といったメジャーなものから、『女体』『西郷隆盛』『首が落ちた話』など、芥川はこんなものも書いていたのかと、彼の奥行きの深さを再認識させられるものまで、高品質の作品を多々楽しめる。
人生は一行(いちぎよう)のボオドレエルにも若(し)かない。あまりにも有名な芥川の言葉だが、これは、優れた面のすべてをほんの一瞬の偉大な行為につぎこむような生き方をした人間を好んで描いた彼にふさわしい。自分に罪を着せた女のために燃えさかる家屋に飛びこんでその女の娘を救助した『奉教人の死』のろおれんぞはまさにその典型だ。この作品の引用で終わりにしよう。「なべて人の世の尊さは、何ものにも換え難い、刹那(せつな)の感動に極(きわま)るものじゃ。」(2011/04/15)