温泉街のエスカレーター
5
エスカレーターに乗ると、男たちはかなり下の方まで下がっていた。私は走って男たちのすぐうしろに付けたかったが、私の見栄っ張りな性格がその衝動を押しとどめた。したがって、私がエスカレーターの最下部に到着したころには、男たちの姿は影も形もなかった。私はあとからタオルを巻いた男が来るだろうと高をくくった。しかし、エスカレーターには、浴衣姿も洋服姿も乗ってこなかった。私はどうにかなるだろうと開き直って、宝湯を探した。玉ノ湯のときと同じで外へ通じる出口が同じような位置にあった。それでは、エスカレーターの裏側に回れば、入口か階段があるのではないかと思い、回ってみると、案の定そこにはドアがあった。ドアは閉じていた。開けて進んでいくと、風が体に吹き付けた。目の前に看板があった。この旅館の看板だった。「宝湯」と大きく書いてあった。土手のようなところであった。降りていくと河川敷にテニスコートがあった。先ほど見た女子高校生がその中に幾人も入っていくところであった。もうすでにコートに入って、実に器用に、制服から運動着に着替えている女子高生もいた。私はまずいと思った。幸いまだどの女子高生にも見つかっていなかった。建物の中に戻ろうとして、くるりと向きを変えると、制服姿の女子高生が正面にいた。
「先生、露天風呂の場所、わかりますか」
「え、君は……」
「中川ですよ。早く覚えて下さいね。露天風呂はこの建物の中に入って、階段を一つ下がるとあります。でも、先生……」
彼女はそこで少し切って、「温泉に入っていていいんですか」ときいた。「急がないと課外が始まりますよ」
私は彼女の言っていることが、全く理解できなかった。
「課外って、何のことですか」
「先生、今日からうちの高校で課外をすることになっているじゃありませんか」
彼女はカバンから書類入れを取り出すと、プリントを探した。
「あ、これです」
彼女が差し出したプリントには、放課後の課外授業の一覧表が印刷されていた。私の名前がそこにあった。今日の四時から漢文の課外授業をすることになっていた。
中川という女子高生が腕時計を見せた。
「あと十五分しかない」
「ほら、先生、早く着替えて来ないと……。この建物に入って、階段を一つ下がると、宝湯の付近に旅館直通のエスカレーターがありますから、早く脱衣所に戻ってください」
「うん」
「先生、露天風呂の場所、わかりますか」
「え、君は……」
「中川ですよ。早く覚えて下さいね。露天風呂はこの建物の中に入って、階段を一つ下がるとあります。でも、先生……」
彼女はそこで少し切って、「温泉に入っていていいんですか」ときいた。「急がないと課外が始まりますよ」
私は彼女の言っていることが、全く理解できなかった。
「課外って、何のことですか」
「先生、今日からうちの高校で課外をすることになっているじゃありませんか」
彼女はカバンから書類入れを取り出すと、プリントを探した。
「あ、これです」
彼女が差し出したプリントには、放課後の課外授業の一覧表が印刷されていた。私の名前がそこにあった。今日の四時から漢文の課外授業をすることになっていた。
中川という女子高生が腕時計を見せた。
「あと十五分しかない」
「ほら、先生、早く着替えて来ないと……。この建物に入って、階段を一つ下がると、宝湯の付近に旅館直通のエスカレーターがありますから、早く脱衣所に戻ってください」
「うん」
